比のイスラム過激派アブサヤフ、近隣諸国に活動範囲広げる

インドネシア人船員10人拉致

別の事件でも身代金要求

 フィリピン南部で誘拐事件が相次ぎ、治安当局が対応に追われている。イスラム過激派のアブサヤフが洋上でインドネシア人の船員10人を拉致したほか、昨年に誘拐した4人の外国人をめぐり、新たな身代金の要求が行われるなど、人質の安否が心配されている。フィリピン南部を拠点とするアブサヤフは、周辺諸国にも活動範囲を広げ誘拐を繰り返している。
(マニラ・福島純一)

 3月29日までにインドネシア外務省は、フィリピンのイスラム過激派アブサヤフによって、同国の船員10人が拉致されたことを明らかにした。船員たちは石炭を運ぶタグボートでフィリピンに向かう洋上で、モーターボートに乗ったアブサヤフに襲撃を受け、そのまま連れ去られたとみられている。タグボートが曳航していた約7000トンの石炭も一緒に持ち去られた。アブサヤフは、人質たちの解放と引き換えに5000万ペソ(約1億2000万円)をタグボートの所有会社に要求しているという。

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ミンダナオ島中部で反政府勢力の警戒に当たるフィリピン国軍兵士(2009年3月)

 人質たちはフィリピン南部のスルー州のどこかで拘束されているとみられており、両国は情報を共有するなど連携して救出を目指す方針。またインドネシア軍は、救出作戦のために部隊を派遣する準備があることを明らかにしたが、それにはフィリピン政府の許可が必要なことを強調した。フィリピン政府はイスラム過激派による誘拐事件で、一貫して身代金の支払いや交渉を否定しており、軍事作戦で圧力をかけながら救出を目指す可能性が高い。

 一方、昨年9月にダバオ市沖にあるサマル島のリゾート施設で、カナダとノルウェーの3人の外国人が誘拐された事件でも新たな動きがあった。3月10日にフェイスブック上で、人質たちを映したビデオが公開され、アブサヤフは改めて身代金の支払いを要求し、4月8日までの期限を設定。もし守らなければ人質を殺害すると脅迫した。既に拉致から6カ月以上が経過しており、3人の肉体的な衰弱も懸念されている。国軍当局者はこのビデオに関して「身代金を増やす手口」と指摘し、身代金のネタである人質をそう簡単には殺害しないとの見方を示し、アブサヤフへの掃討作戦を続行する方針を示した。

 さらに3月23日には南サンボアンガ州で、2人の中国系比人が武装集団に誘拐される事件があった。誘拐されたのは70歳の実業家と、その21歳の孫の2人で、自宅に押し入ってきた8人の武装集団に連れ去られた。武装集団は人質を連れてボートで逃走した。警察が行方を追っているが、犯行声明や身代金の要求などはまだなく、アブサヤフの犯行かどうかは分かっていない。サンボアンガ半島では昨年10月にもディポログ市のレストランで、経営者のイタリア人男性が武装集団に拉致され、その後アブサヤフに引き渡されるなど、同地域では誘拐事件が多発している。

 現在、アブサヤフは10人以上の外国人の人質を保持していると考えられている。これまで支払われた莫大な身代金は、イスラム過激派の活動資金になっているとみられ、誘拐事件の防止と人質の早期解放が、政府の大きな課題となっている。アブサヤフはフィリピン国内だけでなく、近隣諸国のマレーシアやインドネシアまで活動範囲を広げており、国際的な連携が求められている。

 3月18日にはスルー州パティクル町で、国軍が約100人のアブサヤフと交戦となり、兵士1人とアブサヤフのメンバー7人が死亡、双方で20人以上が負傷している。国軍によると、昨年にスルー州の戦闘で死亡したアブサヤフのメンバーは133人に達し、164人の負傷者が確認された。逮捕者は13人となっている。

 アブサヤフは国際テロ組織アルカイダとのつながりが指摘されているが、最近ではイスラム国(IS)への支持を表明して忠誠を誓うなど、身代金目的の誘拐を中心に反政府活動を活発化させている。