ベトナムの商都ホーチミンに地下鉄
ベトナム最大の商都ホーチミン市に、地下鉄が2019年にも完成する。ホーチミン中央駅となるベンタイン市場とスオイティエン間を結ぶメトロ1号線は、日本が政府開発援助(ODA)で支援し、ベンタイン市場とタンソンニャット国際空港を結ぶメトロ2号線は旧宗主国フランスが支援する。
(池永達夫、写真も)
日本がODA支援の1号線
20年に全線開通、地下街も建設
地下鉄建設計画がホーチミン市で浮上した背景には近年、急速に高まってきた異常なまでの交通渋滞がある。
渋滞の主因はバイクだ。市に登録されたバイクは07年には320万台だったが、昨年末での登録台数は680万台を超えた。人口800万都市のホーチミン市を考慮すると、老人や子供を抜けば1人1台のバイク天国だ。しかも、ベトナム特有のバイク使用事情もある。というのもベトナムでは通勤、通学、買い物の足としてバイクを使用するだけでなく、夕方や休日のレクリエーションとしてバイクツーリングを楽しむ風土があるのだ。さらに近年、「中国プラス1」や「タイプラス1」として中国やタイ進出企業のリスクヘッジとしてベトナムへの投資や企業進出が増え、経済が上昇気流をつかんだことと並行して車も急増し、これが交通渋滞に拍車を掛けている。
このまま放置すれば商都ホーチミン市が機能停止しかねず、救世主として地下鉄建設が脚光を浴びることになった。
メトロ建設のメリットは渋滞解消だけにとどまらない。駅ビルや駅ロータリー周辺の開発も期待され、1号線沿線では「ビンホームズ・セントラルパーク」などマンションの建設ラッシュが始まっている。また計画されている1号線から6号線までの総延長距離170キロの沿線では、ベッドタウンの建設も期待され、経済波及効果は大きなものがある。同時に都市鉄道で利用されるICカードに「Suica(スイカ)」のような技術が採用されれば、日系企業が入り込む余地もある。
なおホーチミン市メトロ管理委員会は15日、各路線の建設の進展状況を発表。同委はメトロ1号線の工事は計画通り順調に進んでいるものの、メトロ2号線は土地収用に難航し、まだ着工に至っていないという。
ただフランス企業が担当するメトロ2号線が難航している理由として挙げられた土地収用難は表向きのもので、真の理由は狭い土地にごちゃごちゃと建築物がある中で、地下鉄を掘り進める技術がないためとされる。フランスとベトナムの建築風土の落差は大きく、これを埋め合わせるための時間が必要とされる。
既にバンコクの地下鉄などで実績のある日本企業はこうした工事のノウハウを取得しており、結局、日本が支援するメトロ1号線は、19年に高架区間(バーソン~スオイティエン間)を先行開通し、20年に全線開通する見込みだ。同路線は全長20キロで、投資総額は当初10億9000万ドル(約1210億円)を見込んでいたが、計画変更や為替変動などの影響を受け24億9000万ドル(約2740億円)にまで膨らんでいる。
その完成の暁には、日立製作所の車両が走り、ベンタイン市場からビンズオン省の南端までの14駅20キロを29分で結ぶ。1日当たり350本以上が運行され、1日の旅客輸送量は340万人に上る計画だ。郊外では高架鉄道ながら、市中心部では地下を走り、ターミナル駅となるベンタイン駅とオペラハウス駅の間には地下街が建設される。地下区間となるオペラハウス前では工事が2年前から始まっており、道路も一部閉鎖されている。
また中央駅となるベンタイン駅の建設も始まっており、完成すれば、地下道を通って商業ビル「ザ・ワン」と接続する予定だ。
一方の2号線は18年に着工し、今のところ完成予定は22年となっている。
ホーチミンのタクシードライバーは「ベトナム戦争時にトンネルや地下司令部を作ってゲリラ闘争に従事したベトナム人にとって、本格的な地下鉄と地下街が現出することになるのは感慨深い」と語った言葉がなぜか胸にしみる。