インド洋安保で連携強化を

日英安全保障協力会議開く

 日英安全保障協力会議(笹川平和財団、英国王立防衛安全保障研究所共催)が、このほど都内のホテルで開催された。安倍晋三首相は基調演説で「英ジェームズ1世の命で東インド会社の船が長崎に来航したのが1613年。今年は日英関係が発足して400周年を迎える」と歴史的経緯に言及。英国王室のアンドルー王子は「歴史的な日英関係を21世紀の現在に活かす工夫が大事だ」と語った。
(池永達夫、写真も)

防衛産業で協力の可能性も

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安全保障協力会議で基調演説する安倍晋三首相=9月30日、都内のホテル

 アンドルー王子は「19世紀、黄金の全盛期を迎えた英国は20世紀に帝国から撤退したものの、学んだ知識は人類の歴史に活用できる」と総括した。

 そして英国に進出している邦人企業は1000社、日本に進出した英国企業は450社との現状に言及した上でアンドルー王子は、「コラボできていない領域が両国間で存在している」ことを指摘。それが防衛産業であることを明らかにし、協力の門を開く意義を強調した。

 同会議では日英協力の一例として、化学剤防護服の実例が紹介された。

 猛毒の化学兵器などから体を守る化学剤防護服では、英国企業が防護服のつなぎ目から化学剤が浸透するとし、日本企業は布地から浸透すると発想の違いがあった。だが、日本の衣服技術として確立している体から出る汗を放出しながら、雨などはじく撥水技術を活用して外からの化学剤を中縫いの生地でブロックする化学剤防護服と英国の縫い目からの浸透を完全ブロックする化学剤防護服を融合することで、より完璧な化学剤防護服が完成する可能性が高まるというものだ。

 なお同会議では、防衛産業における日英の違いにも触れた。

 すなわち「武器輸出に積極的な英国と抑制的な日本」。さらに武器調達の考え方にも相違があり、英国では10年間といった長期計画に基づく調達手法が存在するものの、日本では5年計画は可能だが、それでも予算的保証はないことになっており、予算はあくまで単年度会計という縛りが存在している。

 なお安倍首相は「インド洋から太平洋にかけての一円は、英国の同邦国が散在する一帯だが、この地域で果たすべき役割」に言及した。

 一方、英海軍軍務歴のあるアンドルー王子は、「島国である英国や日本が繁栄の礎を築いたのは、貿易の安全と航海の自由を担保したからだ」と強調した上で、海賊が戻っているインド洋の安全保障面での懸念を語った。

 とりわけインド洋の安全保障問題では海賊問題だけにとどまらず、中国の進出ぶりが顕著だ。

 中国はスリランカのハンバントタンやミャンマーのチャオピューだけでなく、インド洋におけるシーレーン沿いの港湾整備を国を挙げて支援している。パキスタンのグアダル港にバングラデシュのチッタゴン港、ベンガル湾上のココ諸島、それにアフリカ東部沿岸まで手を広げている。

 シーレーンに沿ってインド亜大陸の南縁に弧を描くように点在する。いわゆる「真珠の首飾り」戦略の発動だ。

 上海協力機構を軸に中央アジアの取り込みを図る中国は、インド洋でも米印海軍を相手に虎視眈々と戦略的動きを加速させている。中央アジアは19世紀にロシアと英国がグレートゲームを演じた場だが、21世紀においても中露米印が絡んだ新グレートゲームが展開されている。そしてその“戦場”は、中央アジアだけでなくインド洋にまで拡大しており、中国は囲碁に似た布石を打ち始めている。

 こうした戦略的な動きに対して、英国との協力と連携強化は大きな意味を持つ。インド洋のアルダブラ諸島やファーカー諸島などは元来、英領インド洋地域だった経緯がありセーシェル共和国となった今も英連邦加盟国だ。

 そうしたインド洋の安全保障を担保する意味でも「より大きなキャンパスで考える」(森本敏前防衛大臣)必要が出てきており、太平洋を結ぶ日米同盟や大西洋を結ぶ米英同盟だけでなくユーラシア大陸の東西を結ぶ「日英同盟」復活の意義は少なくない。