比、コロナ感染急増で再び都市封鎖

 フィリピン政府は3月下旬、新型コロナウイルスの感染者が急増していることを受け、マニラ首都圏とその近郊4州で最も厳しい防疫措置であるロックダウン(都市封鎖)の実施に踏み切った。病院などの医療施設の逼迫(ひっぱく)が深刻化したことから苦渋の決断を迫られた格好だが、経済への影響は計り知れず多くの人々が再び職を失った。
(マニラ・福島純一)

検疫措置で150万人が失業
過剰な取り締まりで死亡事故も

 マニラ首都圏を中心に3月末から新規感染者数に歯止めがかからない状況に陥り、4月に入ると感染者は連日1万人から1万5000人に達するなど、過去最多記録を次々と更新する事態に陥った。治療中の感染者は一時20万人を超えるなど、特に半数以上の感染者を出しているマニラ首都圏では、主要病院の新型コロナ病棟はあっという間に満床となり、入院待ちの待機所や車の中で死亡する患者が相次いだ。中には10件以上の病院をたらい回しにされた患者もいた。疲弊する医療関係者からは政府に対し、厳格な防疫措置の継続を要請する意見も相次いでいた。

マニラ首都圏の商業ビルでフェイスシールドを着用し入場制限のために並ぶ人々(1月撮影)

マニラ首都圏の商業ビルでフェイスシールドを着用し入場制限のために並ぶ人々(1月撮影)

 経済の立て直しに舵(かじ)を切っていた政府にとって、再ロックダウンはまさに苦渋の選択だったが、変異株の影響と考えられている。これまでにない速度の感染者急増はまさに不測の事態だった。ロックダウンとなったマニラ首都圏とリサール、カビテ、ブラカン、ラグナの各州では、食料品店など必須事業以外はすべて閉鎖され、貿易産業省のロペス長官は今回のロックダウンで約150万人が失職したと推定した。

 フィリピンでも中国から提供されたシノバック製ワクチンを中心に予防接種が進められ、医療従事者や高齢者を中心に130万人がすでに接種を受けた。しかしフィリピン大学の研究グループであるOCTAリサーチは、ワクチンの供給不足から、国内で集団免疫を獲得するにはあと2~3年かかると分析した。

 そのため国内では、治療効果があるとされている駆虫薬のイベルメクチンの使用を求める声も強まっている。すでに一部の医師が独断で患者に配布したと公表する一方で、保健省は国内でまだ治験が行われておらず承認されていないとして使用しないよう警告した。しかし複数の上院議員は、個人的に予防措置として服用していることを明かし、ワクチンよりも安価で入手も容易であるとして、予防薬として導入を検討するよう保健省に要請した。

 ロックダウンにより夜間外出禁止の時間帯が延長されるなど、規制強化に伴い各地で違反者の逮捕が相次いでいるが、懲罰がエスカレートし逮捕者が死亡するケースが相次ぎ波紋を呼んでいる。4月初旬には首都圏近郊のカビテ州で夜間外出禁止に違反して警察に逮捕された男性が、懲罰として数百回のスクワット運動を課せられ、帰宅後に体調不良を訴え死亡した。さらにラグナ州でも夜間外出禁止に違反して逮捕され逃走を試みた男性が、自治体の監視員に暴行され死亡した。これを受け国家警察は、防疫違反者は警告と罰金のみにとどめ逮捕しないよう異例の通達を出した。

 4月21日現在、マニラ首都圏とその近隣地域では、防疫措置は緩和され一段階引き下げられた。しかし依然として不要不急の外出が制限される、厳しいロックダウン状態に変わりはない。昨年、世界で最も長いと言われるロックダウンを実行したフィリピンだが、結果的に感染拡大を封じ込めることはできなかった。今回の変異株によると思われる感染拡大に再び見舞われたことで、「また再び振り出しに戻った」との失望感も国民の間で広まっている。