比大統領 全国的規制緩和却下
フィリピンではコロナ禍で高い失業率が続くなど早期の経済復興が期待されているが、感染対策の移動制限などが足かせとなり経済回復とは程遠い状況が続いている。政府内では全土を対象に規制緩和を行い、観光などを促進し経済復興に弾みを付ける案も出ているが、ワクチンの普及にこだわるドゥテルテ大統領はこの提案を却下した。
(マニラ・福島純一)
契約難航し遅れるワクチン接種
対面授業の8月再開目指す
現在フィリピンのほとんどの地域が「修正版一般防疫地域(MGCQ)」と呼ばれる最も緩い防疫レベルとなっているが、マニラ首都圏など感染者数が集中する地域は一段階厳しい「一般防疫地域(GCQ)」となっている。防疫レベルの違う地域では移動制限に伴う通行許可などが違うため、ビジネスや観光目的で複数の州をまたいで移動する際の手続きが煩雑となり、経済復興の大きな足かせとなっている。
政府内で新型コロナ感染対策を司る新型感染症対策省庁間タスクフォース(IATF)は、国家経済開発庁などからの提案を受け、全国的にMGCQに統一する提案をまとめたが、ドゥテルテ氏はワクチン接種が進んでいないことを理由にこの提案を却下した。同氏は、昨年3月から禁止が続く学校での対面授業を段階的に再開するという教育省の提案も却下するなど、ワクチン接種を先にという強い信念を持っていることで知られている。
ドゥテルテ氏は学校での対面授業再開に関して、予防接種が開始されれば8月ごろには再開する可能性があると述べており、全国的な規制緩和もこの時期まで先延ばしされる可能性もありそうだ。
規制緩和の先延ばしは国民の安全を最優先した結果だが、民間調査会社ソーシャル・ウエザーステーションが2月に発表した世論調査によると、昨年11月の段階で国内の失業率は27・3%。昨年全体では平均37・4%と高い数値となっており、過去最悪を記録した2012年の28・8%を大幅に上回る状態となっている。
すでにショッピングモールなどの商業施設も再開してしばらく経(た)つが、かつての賑(にぎ)わいとは程遠い状況だ。特に外国人旅行者を失った観光業界は計り知れない打撃を受けている。
ワクチン頼み状態が続いているが、肝心の接種に関しては2月中旬に開始が予定されていたが、製薬会社との契約が難航し大幅に遅れそうな状況だ。それに加え地方での接種普及に大きな懸念もある。アジア開発銀行は報告書で、地方での貧弱なインフラや冷蔵施設の確保が難しいことなどを指摘し、予防接種が完了するのは2023年の後半までかかると分析した。これは今年後半までに接種の完了を目指すシンガポールや、来年に終える計画のベトナムやタイなどの東南アジア諸国と比べ大きく立ち遅れることを意味する。予防接種普及の遅れは外国人の受け入れや、観光業界の復興にも大きな影響を与えそうだ。
シンガポールを拠点とするASEAN研究センターの調査によると、フィリピン政府の新型コロナ対応は東南アジア諸国で最悪であることが分かった。調査によると感染対策に不満と答えた国民は53・7%にも達し、調査対象となった10カ国の中で最悪の結果となった。
フィリピン国内での感染者数の累計は約56万人に達し、死者は約1万2000人。1日の感染者数は2000人前後で推移している。
懸念されていた年末年始や旧正月の影響による感染爆発は免れたが、各地で変異ウイルスの感染が確認されるなど、専門家や医療関係者からは大幅な規制緩和は時期尚早との意見も根強い。