米次期政権の外交と東アジア 日韓リモート座談会
対中圧迫 同盟国は制限的 申
米エリートが警戒感を共有 遠藤
米中協力で北圧迫は困難に 陳
現状「凍結」下で北核増強も 遠藤
陳 米大統領選挙で民主党のバイデン元副大統領が選出される状況について日本はどう見ているか。
[/caption]遠藤 3点ある。一つは不安が減ったということ。メディアの世論調査でもトランプ当選直後と比べ不安が半減した。二つ目に外交的には伝統回帰の側面が強いだろう。三番目だが、不安がないのかというとこれも違う。一つはトランプ氏の得票数が増えて、彼がホワイトハウスを出ても「トランプ主義」が残り、外交の足かせとしてバイデン政権を縛る。もう一つは、オバマ政権時代に日本の頭越しに中国への接近を図った悪い思い出がある。こういうところにある種の不安がある。
陳 申先生、韓国はどう見ているか。
申 どんな政府が米国で発足しても、韓国政府は歩調を合わせる。バイデン政権は予測可能性という面でトランプ政権よりは安定的で、米国の伝統的な外交が復元されよう。中国問題に関し同盟国と共に規範的な範囲内で圧迫すると言っているが、トランプ政権ほど効果があるのか。
日韓関係にとってはチャンスだ。日米韓の安保協力に関する声が米国から強く多く出るだろう。北朝鮮問題では、互いに全く違う視点が衝突するので、韓国政府がどう調節していくかだ。
陳 西野先生、日本は韓国の立場をどう見ているか。
西野 大前提として2国間の懸案がある。2013年、バイデン副大統領(当時)のアジア訪問時のように、直接、両国に強く解決を求めるのかが大きな関心だ。日本側から見ると大法院の徴用工判決は韓国が解決すべき韓国の国内問題なので、米国が「けんか両成敗」の形で解決を求めてくれば、日本にとっても負担だし、韓国も同様だろう。
バイデン政権は当面コロナ対策と経済問題に対処しなければならず、新しい外交チームが立ち上がるまで約半年かかると見れば、すぐに直接強く関与してくることはないだろうが、日米韓の同盟重視という方針では臨んでくるだろう。
北朝鮮の核問題では、米新政権の採るであろう原則的で制裁重視のアプローチと、文政権の柔軟かつ段階的なアプローチには違いがある。どう調整するのか関心がある。
◆米中関係
[/caption]陳 ほとんどの専門家は、米国の基本的な立場として、バイデン氏が大統領になっても米中関係は改善しないと見ている。また、人権問題、ウイグル問題、香港問題などによって他の形の圧力がもっと強くなるとの見方もある。トランプ政権より中国にとって厳しくなるのではないか。
申 トランプ政権が中国の脅威を一般的な挑戦と見なさず、米国は全力で圧迫すべきだと認識転換した点を高く評価する。米国の持つ関税や軍事力、さまざまな優位的な部分で習近平政府を圧迫したのは効果があった。民主党は同盟国と共に国際規範の枠の中で圧迫すると言うが、中国の内需市場が大きいので、ドイツや一部欧州諸国は関係悪化を願わない。つまり、同盟国の賛同は制限的なので、効果は大きくないだろう。
陳 民主党政権はオバマの時も、戦略的な面でそれほど成果を出していない。これからもそうした可能性があるとの懸念について、遠藤先生はどう考えるか。
遠藤 バイデン政権でも対中国政策の基本は変わらない。議会を含めた超党派のコンセンサスがあり、非常に強い中国への警戒感が米国のエリート間で共有され深く根を下ろしている。ただアプローチが変わる。
バイデン政権は価値、同盟、多国間主義を重んじるアプローチで中国に対するだろう。北京から見ると中長期的にはやりにくい。仲間と正しさを主張しながら中国包囲網をソフトな形でつくろうとするので、欧州も他の国も乗りやすい。
陳 トランプ政権は、相対的に北朝鮮よりも中国に敵対感を持ち圧力をかけた。そうすれば北朝鮮は追随してくると見ていた節がある。バイデン氏は中国と北朝鮮をどのように扱うだろうか。
[/caption]西野 中国の人権問題や不公正な貿易慣行について、基本的にトランプ政権と同じく厳しい立場を維持するだろう。その一方で、地球規模の課題(気候変動、感染症などの問題)では中国の協力を求める必要があると言っている。北朝鮮問題が中国の協力を求めるべき課題なのかどうかが重要なポイントだ。
陳 米国が中国との協力を通じて北朝鮮を圧迫するのは難しくなると思う。08年の6者協議の時、中国は北朝鮮問題について自らの役割を重視させながら影響力を拡大していったが、トランプ氏は直接的に問題を解決しようとして、中国は疎外された感じを受けた。
申 中国問題と北朝鮮問題は連携している。バイデン氏は中国を説得し北朝鮮に圧力をかけると言っているが、これは同盟ネットワークで圧力をかける、あるいは日米韓の安保協力を強化するという主張とは相反するものだ。
北朝鮮問題において中国が米国の立場に同調するのは形式的なレベルにとどまるだろう。中国は、北朝鮮の核開発は嫌だが、北朝鮮を米国に取られるのはもっと嫌だから米国と北朝鮮問題を語る時、限界がある。
◆北核問題
陳 北朝鮮の核問題で「段階的なアプローチ」や「部分的な非核化」がバイデン陣営で議論されているが、日本はどう考えるか。
西野 日本政府の希望は、バイデン政権が原則ある外交を守って、実務レベルで十分に話を詰めて、まず非核化のゴールについて何らかの合意をした上でないと前に進むのは難しいという立場を取ることだ。
バイデン政権に入ると予想される人々は、非核化は難しいという、極めて現実的な認識を示している。それを基に外交を組み立てると、非核化交渉でなく、軍備管理交渉になる可能性がある。日本が留意すべき点で、その認識を米国の新政権に伝えることが重要だ。
陳 バイデン政権になれば日米韓が活性化する可能性が高いので、日本も役割を拡大しようと考えているかもしれないが、今の雰囲気では、北朝鮮は米国と直接交渉、または中国との協力を通じて保険を掛けておく状況なので、日本の役割はこれまでと同じく小さいのではないか。
遠藤 難しい質問だ。バイデン氏は候補時代にトランプ政権の北朝鮮への対話姿勢を厳しく批判した。結局、金正恩氏に正当性を与えてしまったと。側近たちの間で、北朝鮮の核に対する一種の容認論があるのは承知しているが、北朝鮮の核拡散を公式に認めるのは難しいだろう。そこには、日本政府の圧力が作用する局面もあると思う。
朝鮮半島、とりわけ北に関して、バイデン政権は伝統的な方向に回帰していくと言ったが、オバマ政権時のように、北朝鮮が着々と核を増強していく現状がしばし続くのではないか。米国が北の核を認めない政策に固執する一方で、中国は習近平体制の中で北を守る方針を明らかにしており、米中協力の余地は少ない。結果的に現状がフリーズ(凍結)されて、日米韓の同盟を大事にしながら、その中で何も動かず北の核が密かに増強されていくのではないか。
陳 寧辺プラスαを凍結をするスモールディールだけではバイデン政権が認めるのは容易ではない。核問題について以前より強硬な形を取るのではないか。
[/caption]申 非核化の最終的な段階を確認し、ロードマップ(行程表)にまとめた上で、スモールディールになればそれは理想的な形だ。ただ、北朝鮮が語るスモールディールは最終段階まで考えたものでなく、それぞれの段階において次の段階を語らない。まず寧辺の核施設を凍結する、次に他の核施設を凍結する、このような形で分けてくる可能性が高い。次の段階に行くための担保、非核化の最終段階、ロードマップ、これらを事前に合意しておかないと、究極的に北朝鮮の核の保有を認めるディールになってしまう。
陳 西野先生の考えは。
西野 バイデン政権の政策の方向性については「凍結」を優先させるアプローチになる可能性が高い。「戦略的忍耐」という選択は韓国が李明博、朴槿恵という保守政権だからこそ可能だった。現在は文在寅政権で22年春まで続く。バイデン政権は同盟重視の立場から文政権や日本にも耳を傾ける形で対北朝鮮政策を決定していくだろう。そのプロセスで日韓の意見の違いを先鋭化させることは是非避けるべきだ。
◆日韓関係
陳 14年にオバマ大統領が朴槿恵大統領、安倍晋三首相と会って日韓がより協力していく立場を表明した。バイデン政権になれば、その延長線上で、日韓関係にも今より積極的に関わり始めるのではないかと思う人が多い。しかし、日韓関係はそれぞれの国内政治が深く関係している。韓国では22年大統領選挙があり、日本の菅義偉政権も21年総選挙がある中で、米国の圧力があるからといって歴史問題、特に徴用工問題について妥協できる余裕があるのか疑問だ。日韓関係をどうすればいいのか。
西野 まず、目前の問題を管理をするのが優先で、(韓国政府が)現金化の問題にどう対処するのか。そのプロセスを見ながら、日本の輸出管理の問題はできるだけ早く解消するべきだ。
もう一つ、バイデン政権がいずれ日韓関係を仲裁する可能性は十分にあると思うが、13年の慰安婦問題と今の徴用工問題は性格が異なる。韓国政府は、慰安婦問題は請求権協定の枠外と位置付けたが、徴用工問題は請求権に含まれるとの見解だった。そんな中、大法院判決により引き起こされた問題はやはり韓国側が何とかすべきだとの日本の立場には説得力がある。
申 文在寅政権が任期内にソリューション(回答)を模索するのは難しいが、現実的に現金化は後回しするのではないか。実際に行おうとすれば、軍事情報包括保護協定(GSOМIA)破棄の時のように米国が関与する可能性が高い。
陳 日韓の問題について、韓国政府が現状をきちんと理解していないのではないか。だから、この問題を文在寅政権のうちに解決するのでなく、まず歴史問題を凍結し、他の側面での協力を進める努力が必要だが、これさえ選挙を控えているので難しい。このような壁があるにもかかわらず、日韓関係を改善しようという意思があるのか、日韓両国の決断が必要な時期になったと思うが。
遠藤 日本政府の中枢に長くいた元高官は、安倍政権末期の日本政府において、日韓関係を日本側から改善したいと思っている人は霞が関に1人もいないと言った。安倍政権の継続を謳う菅政権も、文在寅政権側も同じではないか。結論的に文在寅政権期、あるいは選挙前の菅政権では、日韓関係のブレイクスルーを起こす契機は非常に薄い。
西野 同盟やパートナーシップを重視するバイデン政権の登場は日本と韓国にとって非常に歓迎すべきことだ。両国は対中国、対北朝鮮政策に違いがあるが、米新政権の下、日米韓3カ国の協力の中でその違いをできるだけ調整していくべきだ。それが、今後の東アジアにとって重要だ。