中国公船、インドネシアEEZに進入
インドネシア海上保安機構は、中国海警局の公船が12日、南シナ海の南部にあるインドネシアの排他的経済水域(EEZ)内に進入したため退去を要求したが、中国公船は「『九段線』のパトロールだ」と主張し、その後もインドネシアのEEZ内にとどまった。東南アジアで一番の新型コロナウイルスの累計感染者数(20万人)を出しているインドネシアが、防衛費圧縮を余儀なくされるのを“好機”と見て、中国が管轄権を主張する南シナ海の「九段線」の既成事実化を同海域でも図ろうとしている。
(池永達夫)
最大級の天然ガスに食指
「九段線は無効」と米国務長官
中国公船が進入したのは、カリマンタン島の北西に位置するナトゥナ諸島の近海だ。
ナトゥナ諸島近海でインドネシアが設定しているEEZは、中国が管轄権を主張する九段線と一部重複しており、係争海域となっている。好漁場として知られており、この海域でたびたび違法操業をしてきたのが中国漁船だった。
2010年と13年には同海域で中国漁船がインドネシアに拿捕(だほ)されたため、中国は人民解放軍の艦船を派遣して漁船を奪還したこともある。
このため、インドネシア政府は16年、レーダーを備えた違法漁業の監視施設を大ナトゥナ島のラナイ軍基地に併設。翌年には周辺海域を「北ナトゥナ海」に呼称変更した。今年1月には、同基地に軍艦8隻と戦闘機4機を配備し哨戒に当たっている。これにより、ナトゥナ諸島の駐留兵力は約2000人から4000人へと倍増したことになる。
また、インドネシア海軍は7月下旬、ナトゥナ諸島近海を含む南シナ海の南の海域で軍事演習を実施した。ミサイル駆逐艦2隻や護衛艦4隻など計24の軍艦が参加する大規模な演習で、同海域に影響力を強めようとする中国を牽制(けんせい)する狙いがあった。
インドネシア海軍のアフマディ・ヘリ・プラウォノ司令官は、「新型コロナウイルスの感染が拡大しているものの、軍の即応性に支障はない」と強調。軍事演習では同時並行して陸上訓練も行われ、水陸両用作戦強化を図るなど中国をにらんだナトゥナ諸島防衛を念頭においたものだった。
だが、その試みをあざ笑うかのように中国海警局の公船は今回、ナトゥナ諸島近海のEEZ内に進入した。同諸島の主な産業は漁業だが、インドネシアEEZの端にある東ナトゥナガス田は世界最大級の天然ガスの埋蔵量を持つ。中国は、牛の舌のように南シナ海に伸びている九段線で、この天然ガス資源に食指を伸ばそうとしているのは明らかだ。
なお、米国のポンペオ国務長官は7月、中国が進出を強める南シナ海での領有権の主張について「完全に違法だ」と述べ、明確に否定する画期的な声明を出した。
ポンペオ氏は、中国が南シナ海で主張する独自の境界線「九段線」で囲った海域に対する「歴史的権利」を国連海洋法条約違反と判断した16年の仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の判決と、米国の立場を今後は一致させると表明。これまでは判決の順守を求めるにとどめ、「米国は領有権紛争に肩入れしない」と中立的な構えを示してきたが、姿勢を大きく転換させたことになる。
ただ、中国の嫌がらせを怖がる東南アジア諸国連合(ASEAN)の反応は鈍い。ASEANは12日にオンラインで開いたASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会議で、米中対立が深まる南シナ海情勢について、当初は声明案に記載されていた「力の行使やそのような脅しをしない」との表現を議長声明に盛り込まなかった。