ベトナム、EUとFTA批准へ

 ベトナム国会は今月末にも欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)を承認し、正式にEUベトナムFTAが批准される。EUが東南アジアの国でFTAを結ぶのはシンガポールに次いで2カ国目。2年前に発効した環太平洋経済連携協定(TPP)にも加盟しているベトナムは、新型コロナウイルスで逆風が吹く中、さらなる市場拡大に動いた。(池永達夫)

今月末にも、ASEANで2ヵ国目
外資「脱中国」の受け皿目指す

 1991年のソ連崩壊で最大の支援国を失ったベトナムは、ドイモイ(刷新)路線強化など西側諸国との関係改善に動き、経済的活力を図ってきた経緯がある。

ベトナム国会

開会中のベトナム国会=27日、ベトナム政府HPから

 とりわけ米国相手のべトナム戦争に勝利はしたけれど、経済再建がままならず勝利の果実が得られない時、ベトナム経済が上昇機運に転じる契機となったのは2000年の対米通商協定の締結だった。ベトナム戦争終結は1975年だから、実に四半世紀にわたってベトナム経済は低空飛行を余儀なくされたものの、ベトナム経済を救ったのは、皮肉にも敗戦国であるはずの米国との商売をスムーズに行えるようにした通商協定締結だった。

 さらにベトナムはTPPにも加盟した。商品の輸出入だけでなく金融の自由化や知的所有権の保護などを包括的に盛り込んだTPPに参加したのは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中ではシンガポールやマレーシア、ブルネイで、自動車産業などのハブ的存在であるタイが未加盟の中、ベトナムの加盟は画期的なことだった。

 ミャンマーとともにASEAN最後のフロンティアとされたベトナムとすれば、ロヒンギャ問題などで足を泥沼にとられた形のミャンマーを、はるか後方に見る立場で、追い付き追い越すターゲットはASEANの産業的ハブの地歩を固めつつあるタイだ。

 そのタイは2月、TPP加盟の意向をソムキット・チャトゥシーピタク副首相が表明したものの、結局、連合政権を構成する他政党の合意を得られず、話は振り出しに戻ってしまった。

 そうした政治的しがらみのないベトナムは、EUとのFTA締結にも進み、さらなる市場拡大に動くことで経済発展のエンジン役を期待している。かつて、米国の市場を確保する対米通商協定でベトナムの製造業が活気づいた記憶が鮮明に残る中、今度は次に控えるマーケットとしてEUの取り込みに動いたのだ。

 このFTA発効後には、ベトナムからEUへの輸出品の71%の関税が、EUからベトナムへの輸出品の65%が即時撤廃される。さらに10年かけて、双方の輸出品の99%の関税を撤廃する。衣料品や履物など総輸出の15%程度にとどまるEUへの輸出にドライブがかかる見込みだ。

 ベトナムとすれば、新型コロナウイルスの感染拡大による外資系企業の「脱中国」の動きを促し、その受け皿になろうという思惑もある。既に「チャイナ+1」や「タイ+1」としてベトナムに進出してきた日系企業も恩恵を受けることになる。その代表格はベトナムに提携縫製工場を構えているユニクロを運営するファーストリテイリングなどで、自動車部品や機械部品など欧州に輸出している日系企業も輸出ドライブがかかることになり、ベトナムでの生産拡大や進出を促すことになる。

 ベトナム政府は4月23日、ハノイ、ホーチミン市などに適用していた不要不急の外出禁止を解除した。東南アジアの主要国で最も早く経済正常化に動いたものの、7%成長を維持していた同国の経済成長率の落ち込みは避けがたい。こうした逆風下にあればこそ、EUへの輸出拡大にはますます期待がかかる。