フィリピン 新型コロナウイルス対策で封鎖延長しつつ規制緩和

 フィリピン政府は新型コロナウイルス対策で外出や移動を制限するロックダウン(都市封鎖)を、マニラ首都圏などで規制を緩和しつつ延長することを決定した。規制緩和により、生活必需品以外を扱う小売店の他に、製造業なども規模を制限しながら再開が可能となる。政府は感染の封じ込めを試みながら、ほぼ停止状態だった経済活動の再生を図る。(マニラ・福島純一)

感染第2波の懸念も
収束見えぬまま経済再開

 現在フィリピンで実施されている封鎖措置は、厳格な順に「強化された地域隔離措置(ECQ)」「修正版の強化された地域隔離措置(MECQ)」「一般的な地域隔離措置(GCQ)」の3段階となっている。5月16日からの変更で、マニラ首都圏はMECQとなり規制が緩和されたが、フィリピン中部のセブ市とマンダウエ市では刑務所や貧困地区で感染が急増したことから、自治体からの要請でECQに据え置かれた。

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3月9日、マニラの高校で、消毒作業を行うフィリピン政府職員(AFP時事)

 それ以外の地域はGCQとなり、経済活動の再開の他、公共交通機関も定員を制限しながら再開。外出制限も緩和され、若年者や60歳以上の高齢者を除き移動が認められる。将来的に感染が収束すれば、さらに緩和された「修正版の一般的な地域隔離措置(MGCQ)」となる見通しで、ソーシャルディスタンスやマスク着用を常識とする「ニューノーマル(新常態)」が、ワクチンや特効薬が開発されるまで続けられる見通し。すでに国会ではニューノーマル法案が提出され審議が始まっている。

 フィリピンでの感染者は、5月20日の時点で新たに279人の感染者が確認され、累計感染者は1万3221人に達し、死者は842人となった。5月に入ってからの感染者は一日におよそ200人から300人の間で推移しており、東南アジア地域では比較的早くロックダウンを開始したにもかかわらず、タイやマレーシアと比べると収束に向かっているとは言えない状況で、今回の規制緩和を見切り発車と指摘する声もある。

 規制緩和の直前にフィリピン大学の専門家チームが発表した報告書では、マニラ首都圏で規制が緩和された場合、1カ月後の感染者数は2万4000人、死者は1700人に達し、ロックダウンをそのまま継続した場合と比べ2倍に膨れ上がると分析。政府に規制緩和の再考を提言するなど、第2波の懸念が常に付きまとう状況だ。

 政府としても、今回規制緩和に動いたのは収束の兆しが見えたからではなく、これ以上の経済封鎖を続けられないという財政的な理由によるものが大きい。ドゥテルテ大統領は「もう政府に余裕がない」と述べ、今後はコストが掛かる州規模の広範囲なロックダウンは行わず、最小行政地区(バランガイ)単位で行う方針を示している。

 経済活動を再開するに当たって、民間部門からは職場復帰する従業員に簡易キットを使った集団検査を行う計画を示していた。しかし医学会からは医療システムのリソースに負担をかけるだけだとして反対の声が上がった。保健省も感染拡大地域におけるPCR検査の拡大を進める一方で、症状が出た患者への対応を優先するため、簡易キットによる集団検査の必要はないとの立場だ。医療現場の切迫した状況が続いている。

 規制緩和が週末に行われたこともあり、営業を再開したショッピングモールに買い物客が殺到し、ソーシャルディスタンスが守られない店舗も多数発生した。これを受け大統領府のロケ報道官は、規制緩和は経済活動再開が目的で、レジャーのためではないと指摘。労働者以外の外出制限は依然として有効であることを強調し、もし感染者数が急増すれば再び厳格なロックダウンに戻る可能性もあると国民に警告を発した。今後も経済活動再開と感染拡大防止をめぐる、一進一退の駆け引きは続きそうだ。