新型コロナ 比政府、ロックダウン延長
感染増加に歯止めかからず
フィリピンで新型コロナウイルス対策が難航している。他のアジア諸国に比べ早い時期にロックダウン(都市封鎖)を決断し、すでに1カ月以上が経過したが感染の勢いは減速せず、感染者はすでに5000人を超え東南アジア諸国で首位となった。ドゥテルテ大統領はロックダウンの延長を決断したが、資金難などの課題に直面し国民に協力を呼び掛けた。
(マニラ・福島純一)
市民は「封鎖疲れ」、路上遊興も横行
フィリピン政府は7日、13日までの予定だった新型コロナウイルスの感染防止に伴うロックダウンを30日まで延長すると発表した。対策委員会のノグラレス報道官は、専門家などの意見から感染者数がまだピークに達していないと判断し延長は必要だと強調。その間に検査能力の向上や施設の拡大を図り、大量検査の実施に備える方針を示した。
また大統領府のパネロ報道官は、マニラ首都圏があるルソン島に限定しているロックダウンの地域拡大に関して、今のところ政府は拡大はしないとの判断を示した。州など自治体に関しては、それぞれの首長に判断を委ねる方針。現在セブ州などが独自にロックダウンを行っている。
ドゥテルテ氏は9日の演説で、ロックダウンに伴う経済活動の停止や莫大(ばくだい)な支出により「本当に資金が不足している」と政府の窮状を説明。「私はフィリピン文化センターなどの政府資産を売却してでも国民を助けるつもりだ」と述べ、改めて国民に新型コロナウイルス対策への協力を求めた。
また「今は自分の権利のために他人に圧力をかけるときではない」と述べ、ロックダウン期間中に家賃の未払いを理由に、アパートなどから住人を追い出さないよう家主に警告。貧困世帯への現金支援も約束した。ドミンゲス財務長官は、アジア国際銀行と世界銀行から、パンデミック対策として56億ドルの資金を借りる方針を明らかにした。
ロックダウンによる感染拡大の減速を狙うフィリピンだが、すでに感染者数は東南アジア諸国連合(ASEAN)の10カ国内で最多となっている。米ジョンズ・ホプキンス大学による集計によると14日までに、フィリピン国内の感染者数は5223人となりマレーシアの4987人を超え首位となった。
死者数はインドネシアの459人に次ぐ335人となっており、似たような感染者数ながら82人に抑え込んでいるマレーシアと比べるとかなり多い数字だ。回復者も少なく、感染者数2位のマレーシアの2478人に対し295人だ。死者の多さと回復者の少なさは、やはり貧弱な医療体制が原因と考えられる。
対策本部のガルベス大統領顧問は14日、ロックダウンを段階的に解除するには、国民の規律と協力が欠かせないと強調した上で、その準備が9月から12月までかかる可能性もあると説明。外出禁止を無視して住人が出歩く地域で感染が拡大していると指摘し、国民に忍耐と規律を求めた。
またロックダウンが解除された後も、ワクチンが開発されるまでは完全に元の生活に戻ることは困難だと指摘。ソーシャルディスタンスなどの規範を残した「新たな常態」の生活が必要だとも強調した。
一方、ロックダウンの長期化に伴う「封鎖疲れ」も浮き彫りとなっており、防疫態勢を脅かし始めている。マニラ市のモレノ市長は13日、外出禁止にもかかわらず住人100人が路上に集まり、ボクシング大会やビンゴゲームに興じていたトンド地区の一部地域に完全封鎖措置を命じた。同市ではほかにもビルの屋上や墓地などで闘鶏を開催していた住人が逮捕されている。国家警察によるとロックダウンの期間中に外出禁止違反などで、すでに全国で10万人が逮捕されている。
ロックダウンの解除をめぐっては、対策本部が範囲をルソン島全域から感染状況に応じた地域ベースへの段階的な移行を検討する一方、ドゥテルテ氏が13日の演説で、抗体による治療薬が入手可能になるという条件付きでの解除をほのめかすなど先行きは不透明だ。
ロックダウンによる経済的な打撃は大きい。経済活動の停止期間がさらに長期化すれば、国民が疲弊するだけでなく、経済の立て直しが難航することも考えられる。感染防止と経済活動再開のバランスの見極めが政府には求められる。