新型ウイルスは武漢の研究所から流出濃厚

特別寄稿 米人口調査研究所所長 スティーブン・モッシャー氏

 米国のベテラン中国ウオッチャーであるスティーブン・モッシャー人口調査研究所所長はこのほど、世界的に感染が広がる新型コロナウイルスの発生源について、世界日報に論文を寄稿した。モッシャー氏は、習近平中国国家主席がバイオ研究施設の安全対策強化を指示したことなどを挙げ、武漢ウイルス研究所から拡散した可能性が高いと分析。中国の研究所では、実験に使われた動物を外部に売る行為が横行しており、これがウイルスの流出経路として考えられるとの見解を示した。モッシャー氏の寄稿は以下の通り。

お粗末な安全管理体制
軍生物兵器専門家が現地入り

 中国の指導者・習近平氏は2月14日、北京で開いた緊急会議で、コロナウイルスを抑え込み、同様の感染拡大が将来発生するのを防ぐ体制を確立する必要性について語った。

スティーブン・モッシャー氏

 Steven W. Mosher 1979~80年に文化大革命後の中国農村部の現地調査を行い、「一人っ子政策」で強制中絶が行われている実態を目撃。以来、反中絶活動家として中国人口抑制の暗部を告発してきた。現在、米国の研究機関「人口調査研究所」所長。

 習氏は、「人民の健康を守る」にはバイオセキュリティーリスクを管理する全国的な体制を整備しなければならないと主張したが、その理由は研究施設の安全性が「国家安全保障」上の課題だからだという。

 習氏は、中国の広大な地域に大打撃を与えているコロナウイルスが中国のバイオ研究施設の一つから流出したことを実際には認めていない。だが、そのすぐ翌日、何が起きたかをはっきり示す証拠が出た。中国科学技術省が「新型コロナウイルスのような高度ウイルスを扱う微生物研究施設のバイオセキュリティー管理強化に関する指示」と題する新たな指令を出したのだ。

 もう一度読んでほしい。中国は試験管にいる危険な病原体の保存に問題を抱えていることを認めているように聞こえないか。では、中国国内には「新型コロナウイルスのような高度ウイルス」を扱う「微生物研究施設」が一体いくつあるのだろうか。

 そのような施設は、中国全土で一つしかない。感染拡大の震源地となっている武漢にある施設がそれだ。

 中国で唯一、危険なコロナウイルスを扱う設備のあるレベル4の微生物研究施設が、「武漢ウイルス研究所」の付属機関である「国家生物安全実験室」だ。

 さらに、中国人民解放軍の生物兵器の首席専門家である陳薇少将が1月末、感染拡大を抑えるために武漢に派遣された。

 同軍の機関紙・解放軍報によると、陳少将はSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した2003年以降、エボラ出血熱や炭疽(たんそ)菌と共にコロナウイルスを研究していたという。陳少将が武漢ウイルス研究所を訪れるのはこれが初めてではないだろう。同研究所は、中国国内に二つしかない生物兵器研究施設の一つだからだ。

 このことは、新型コロナウイルスが同研究所から流出し、陳少将はこれを再び瓶の中に戻す任務を与えられたことを示すものなのか。私はそう見ている。

 加えて、中国には同様の事件が発生した過去がある。おそらく実験で使われていた危険なSARSウイルスが、北京の研究施設から2回も流出している。「人為的」な感染は2回とも迅速に抑え込まれたが、適切な安全措置が施されていれば、絶対に起きていないものだ。

 さらに、ほとんど知られていない事実がある。一部の中国人研究者の間では、実験が終わった研究施設の動物を露天商に売り渡す習慣があるのだ。

実験動物の売却横行

 ウイルスに感染した動物を法律で定められた通り適切に焼却処理せず、副業で小遣いを稼ぐために売り渡しているのである。時には、大金になることもある。北京のある研究者は、今は刑務所に入っているが、生きた動物を取引する市場で猿やネズミを売り、100万㌦(約1億700万円)を稼いだ。これらの動物は最終的に誰かの胃袋の中に入っていった。

 新型コロナウイルスの発生源をめぐる疑惑が広がる中、中国当局はつじつまの合わない説明を繰り返している。

 中国当局が最初に責任を押し付けたのが、ウイルス研究所からさほど遠くない場所にある海鮮市場だった。だが、新型コロナウイルスの最初の感染ケースは、海鮮市場に行っていない人たちだった。それから中国当局は、ヘビやコウモリ、さらにはうろこで覆われ、小さくかわいいセンザンコウをウイルスの発生源だと名指ししている。

 だが、私は全く信じない。ヘビはコロナウイルスを運ばないし、コウモリは海鮮市場で売られていない。絶滅の危機に瀕(ひん)したセンザンコウもそうだ。

 証拠は、武漢ウイルス研究所で行われた新型コロナウイルス実験が発生源であることを示している。ウイルスは感染した職員から施設の外に出たか、実験動物と知らずに食べてしまった人を通じて、うつった可能性がある。媒介動物が何であるにせよ、中国当局は今、危険な病原菌を扱う研究施設の深刻な問題を正そうと必死なのだ。

 中国は自国民に伝染病をばらまいた。中国政府が運営する微生物研究施設のミスにより、中国国内外で最終的にどれだけの人が亡くなるかはまだ分からないが、人的損失はかなりのものになるだろう。

 だが、習近平氏によれば、心配無用だという。習氏はわれわれを安心させるために、バイオセキュリティーリスクを管理している。人民解放軍の生物兵器専門家がそれを担当している。

 中国国民がこれで安心するとは思えない。われわれもそうだ。