フィリピン、新型肺炎の国内感染抑制

 フィリピン政府は新型肺炎の世界的な拡大を受け、水際対策を強化している。早い段階で中国からの入国を全面禁止したことで、国内の感染者は最小限に抑えられている印象だ。しかし国内では中国人観光客の激減に加え、輸出品への影響も出始めており、経済への影響も懸念されている。
(マニラ・福島純一)

中国からの早期入国遮断が奏功
観光、輸出産業への影響に懸念も

 フィリピン政府は、1月30日に国内で初めての中国人感染者を確認したことを受け、2月2日には、香港やマカオを含む中国のすべての地域からの訪問者に対する入国禁止措置を発表した。この措置は中国人だけでなく、これらの地域に滞在していたすべての外国人を含むという徹底した内容だ。ただしフィリピン国籍を持つ者や、永住権を持つ外国人は除外される。

ダイヤモンド・プリンセス号

フィリピン人乗務員500人が勤務するダイヤモンド・プリンセス号と下船者を乗せるため待機中のバス(手前)=19日午前、神奈川県横浜市の大黒ふ頭(森啓造撮影)

 フィリピン政府はこれに先立つ1月23日、感染防止を理由に、中国湖北省武漢市からリゾート地の空港に到着した中国人約600人を強制送還するという強硬措置を取るなど、比較的迅速な感染対策を行ってきた。フィリピンでは中国からの労働者や観光客の流入が急増しており、政府の高い危機感が迅速な対応を後押しした側面もありそうだ。

 保健省によると19日の段階で、国内で確認された感染者は3人で、そのうち1人が死亡している。感染者、死者共に、武漢市から香港経由でフィリピンを訪れた中国人観光客だった。死亡した44歳の中国人男性は、国内で初めて感染が確認された38歳の中国人女性のパートナーで、世界で初めて中国国外での新型肺炎による死者となった。残された2人の感染者は、すでに回復して退院している。

 今のところ国内で確認された感染者は中国人のみで、フィリピン人への感染は確認されていない。現在も全国各地で135人が感染の疑いで隔離されているが、すでに400人以上が陰性と確認され退院している。

 今のところ政府の水際作戦は成功しており、マスクの買い占めなど当初のパニック的な国民の反応も沈静化している印象だ。

 しかしその一方で、感染問題が長期化することで経済への影響も出始めている。

 中国は、フィリピンの主要輸出品の一つであるバナナなど果物の最大の輸入国となっているが、新型肺炎の影響で輸出規模が縮小しており、中小規模の栽培農園を中心に影響が広がり始めている。今のところ大手企業に大きな影響は出ていないが、問題が長期化すればほかの輸出先を開拓するなどの対応を迫られそうだ。政府に支援を求める声も強まっている。

 また、特に深刻と考えられるのは観光産業への影響だ。中国人は韓国人と並ぶ主要な訪問者となっており、観光省によると昨年の中国人訪問者は昨年11月の段階で約136万人と、トップの韓国人の約145万人に肉薄する数となっている。観光省は中国からの訪問者を禁止した2月から今後4月までに、429億ペソ(約935億円)の観光収入が失われるとの見通しを明らかにした。

 世界的な感染の拡大で海外旅行の自粛ムードも広がっていることから、ほかの国からの訪問者にも影響を及ぼす可能性も高く、観光業界は危機感を募らせている。

 フィリピンは世界中に労働者を送り出している出稼ぎ大国なだけに、派遣先各国でフィリピン人感染者も発生しており、その動向も注目を集めている。特に日本で足止めされている大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号には、500人のフィリピン人乗務員が勤務している。これまでに35人の感染が確認され、その安否に注目が集まっている。

 アジア諸国では、タイが日本渡航の再考や延期を国民に要請している。このまま日本国内で感染拡大が進めば、フィリピンが日本に対して入国禁止措置をとる可能性も否定できない。