ドゥテルテ大統領、比共産党との和平交渉を中止

NPAの停戦無視で方針転換

 ドゥテルテ政権が重要課題と位置付けていたフィリピン共産党との和平実現。昨年8月に交渉再開を実現し、早期の和平合意が期待されていたが、ここに来て急展開を迎え、交渉中止という最悪の事態に陥っている。停戦合意にもかかわらず新人民軍(NPA)が活動を停止しなかったことや、政治犯の即時釈放などの過大な要求が、ドゥテルテ大統領の融和姿勢を転換させた。
(マニラ・福島純一)

国軍が全面戦争を宣言

 ドゥテルテ氏は4日、フィリピン共産党との和平交渉を中止する方針を示した。停戦合意にもかかわらずNPAとの交戦で多数の国軍兵士が殺害されたことや、400人にも達する政治犯の釈放など、これ以上の和平交渉の継続は困難と判断した。ドゥテルテ氏は、「和平はわれわれの世代では実現しないだろう」と強い失望を表明。政府の交渉団を引き揚げさせる方針を示した。また交渉再開の可能性に関しては、「国益にかなうような説得力ある理由がない限り交渉中止は継続する」と述べ、自身の任期中の再開は困難との見方を示した。

ドゥテルテ

フィリピンのドゥテルテ大統領=3日、南部コタバト州ムラン、大統領府提供(AFP=時事)

 政府と交渉を行ってきたフィリピン共産党の一戦線組織、民族民主戦線(NDF)は1日に、政治犯の釈放が進まないことを理由に一方的に停戦破棄を宣言。その後、各地でNPAによる襲撃が相次いだことを受け、3日にはドゥテルテ氏も停戦を破棄。双方の対立姿勢が決定的となり、和平交渉中止の流れとなった。

 5日にドゥテルテ氏はさらに踏み込んで、共産勢力をテロ組織と見なすと発言し、共産党関係者の一斉逮捕を命じた。ロレンサナ国防長官は7日に、各地で拉致や爆弾事件を繰り返しているNPAをイスラム過激派アブサヤフと比較して「どちらも違いはない」と指摘し、NPAに対する全面戦争を宣言。国軍による掃討作戦を強化する方針を示した。

 一方、NDFは停戦を破棄しながらも、和平交渉は続ける意向を示している。しかし、政府側がこれに応じるかは不透明な情勢だ。

 上院議員からは和平交渉の継続を求める意見が相次いだ。デリマ上院議員は、停戦や政治犯の釈放が和平交渉の前提条件になるべきではないと指摘し、和平に向けた話し合いを継続すべきだと主張した。パンギリナン上院議員は、「和平への道は障害に満ちているが、先進国の一員となるには、それを超えなければならない」と述べ、交渉再開を強く求めた。

 停戦合意の破棄を受け、各地ではNPAの襲撃が相次いでいる。停戦が破棄された1日には、ミンダナオ島ブキドノン州で、私服で帰宅中の国軍兵士3人がNPAの襲撃を受けて殺害された。国軍によると3人は非武装だったにもかかわらず、合計76発もの銃弾を受けて死亡したという。フィリピン中部カピス州では7日、国軍部隊がNPAと交戦となり兵士1人が死亡し2人が負傷した。国軍によるとNPAが道路に地雷を仕掛けているとの通報を受け現場に向かったところ地雷が爆発し、付近に潜んでいたNPAと交戦になったという。

 国軍への襲撃だけでなく、恐喝目的とみられる民間企業への攻撃も活発化している。ミンダナオ島コンポステラバレー州では7日、外資系農園の梱包施設が、NPAとみられる武装集団に放火される事件があり、約100万ペソ(約220万円)の損害を出している。8日にはルソン島中部ケソン州で建設会社の重機がNPAに放火される事件があった。9日にはルソン島北部ベンゲット州でも、鉱山企業のトラック2台がNPAとみられる武装集団によって放火された。いずれも、革命税の支払いを拒否したことへの報復とみられている。

 ロレンサナ国防長官は、NPAが停戦合意を利用してメンバーのリクルート活動を活発化させ、規模を4000人から5000人まで拡大させたと指摘しており、今後各地で戦闘が激化することも予測される。