【社説】米中首脳会談 台湾の現状維持し対中抑止を


15日、ホワイトハウスで、中国の習近平国家主席とオンラインで会談するバイデン米大統領(AFP時事)

 米国のバイデン大統領と中国の習近平国家主席による米中首脳会談がオンライン形式で行われ、米中対立が偶発的衝突に至る危機を回避するため対話を継続する方向だ。しかし習氏は台湾統一実現を主張しており、対話が緊張緩和を演出するだけの時間稼ぎとなってはならない。

米国の対決姿勢が後退

 バイデン氏は米国の台湾関係法を支持すると述べ、「一つの中国」政策の維持は認めながらも、中国の一方的な現状変更や台湾海峡の平和と安定を損なう行為への強い反対を表明した。一方、習氏は「完全な統一の実現が全国民の共通の願い」と改めて台湾統一を主張した。

 平行線だが、いかに台湾の現状を維持し、中国の統一に向けた現状変更の動きを食い止めるかが安全保障上の課題になる。

 南シナ海、東シナ海などへの覇権主義的な海洋進出、インドとの国境衝突、新疆ウイグル自治区におけるウイグル族をはじめとする人権侵害、香港への国家安全維持法適用と民主派排斥、台湾への軍事的威嚇、サイバー攻撃を通じた主に米国に対するスパイ行為や不公平な通商問題など中国をめぐる問題は山積している。

 国際社会から繰り返される抗議にも中国が聞く耳を持たない中で、バイデン氏と習氏の初の会談では、衝突を防ぐための「ガードレール」として対話の継続を確認したが、中国側にとって成果が大きいと言える。

 まず会談のタイミングで、両首脳に指導力の差が開いていた。アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンの復権を許した米軍撤収で支持率を失うバイデン氏には、中国共産党第19期中央委員会第6回総会で採決した歴史決議によって権威を増した習氏を相手に、民主主義国家のリーダーとしての役割を貫けるか不安が残った。

 昨年までトランプ前米政権は、中国の不正に対して厳しく制裁を科していった。同年7月当時のポンペオ国務長官は演説の中で「ニクソン元大統領はかつて、世界を中国共産党に開くことで『フランケンシュタイン』を作り出してしまったのではないかと懸念していると述べたが、その通りになった」と語り、「中国の共産主義が持つ悪、米国の冷戦勝利後の勝利者、臆病な企業への認識が甘く、中国の『平和的台頭』にだまされたのだろう」と、共産主義の中国について鋭い警告を発した。

 首脳会談でも習氏は「平和的共存」を唱えたが、バイデン氏は「中国の体制転換を求めない」と確認したといい、米国の対決姿勢は前政権から後退している。米中対話の合意で中国の「G2(二大国家)」回帰を許した向きがあり、中国外務省の趙立堅報道官は「これからの両国関係の発展に重大な意義と深い影響を与えるもの」と歓迎した。

 同盟諸国との結束強化を

 再びだまされてはあまりに愚かである。バイデン氏と習氏の会談が行われた16日にも、中国は軍用機を台湾の防空識別圏で飛行させており、「平和的共存」の言葉に行動が伴っていない。台湾の安定と「現状維持」を守るためにも、米国と同盟諸国は対中抑止力を高める結束を緩めてはならない。