レーガン流「力の抑止」を 元米上院議員 ジェームズ・タレント氏(下)
2014世界はどう動く
識者に聞く(2)
対中政策
防空識別圏設定は沖縄県・尖閣諸島だけでなく、東・南シナ海で中国が見せている行動の延長線上にある動きだ。問題となっている地域で中国は主権者であるかのように振る舞い、船舶や航空機を送り込んで対立を煽(あお)っている。中国の行動は武力衝突のリスクを危険なレベルにまで高めている。
――米国の影響力低下が中国の挑発的行動を助長しているのでは。
その通りだ。米国が軍事力低下を放置していることは、中国に誤ったメッセージを送っている。
私が見てきた中で、国防政策は本質的には外交政策であると本当に理解していたのはレーガン元大統領だけだ。強力な軍事力を保持することは、国益を守る決意と用意があるというメッセージなのだ。このメッセージを力の裏付けを持って継続的に発信していれば、他国が挑戦してくることはめったにない。
これこそ中国に対処する上で不可欠な要素だ。米国は太平洋地域のプレゼンスを拡大するとともに、日本など地域の同盟国などと協力しながら、力を増強する必要がある。オバマ政権のアジアへの「ピボット(基軸移動)」、「リバランス(再均衡)」は正しい政策だが、具体的な行動の裏付けが必要だ。
――米海軍の艦艇は10年以内に現在の約280隻から240~250隻に縮小する見通しだ。
世界中の米国の国益を守るには、350隻前後は必要だ。常時運用できる艦艇は3分の1であり、350隻あれば、120~125隻がいつでも展開可能になる。増加した艦艇の大半を太平洋地域に配備すれば、同地域で常時運用できるのは現在の50隻から60隻に増え、即応態勢は非常に安定する。
――オバマ大統領は、海軍で重要なのは量より質との認識を示したが。
量はそれ自体が質なのだ。海軍ではプレゼンスが極めて重要な意味を持つ。その地域に対するコミットメントのシグナルとなるからだ。数がなければ、プレゼンスを維持することはできない。
――米空軍も縮小・老朽化が進んでいる。
空軍戦力の老朽化は深刻だ。加えて、次世代戦闘機・爆撃機の開発に着手していないことは由々しき事態だ。F35戦闘機の購入とともに、新たな技術開発など将来への投資もしないといけない。装備の調達と将来のプラニング、両方を進めることが重要だ。
――中国は米軍の戦力展開を阻害する「接近阻止・領域拒否(A2AD)」能力の増強に力を入れている。
極めて深刻な脅威だ。これに対し、米国はバージニア級攻撃型原子力潜水艦の建造ペースを年2隻に増やした。これは大きな進歩だが、さらに年3隻にしてグアムに配備すれば、良いメッセージとなる。
太平洋の基地インフラを抗堪化し、中国の攻撃に対する脆弱(ぜいじゃく)性を低下させることも必要だ。また、地上発射型長距離巡航ミサイルなどの開発を進めることで、逆に中国のアセットに脅威を与えるのも手だ。
だが、国防費削減の流れが続けば、米国の優位は失われるだろう。
――オバマ氏は「核なき世界」の実現を目指しているが、中国が核戦力を増強する中で、米国がロシアとさらなる核軍縮を進めるのは危険では。
その通りだ。核軍縮の枠組みは米ソ2極体制から発展したものだが、核戦力を持つのはロシアだけではない。中国も主要核保有国の一つだ。彼らは核弾頭数を倍増させ、多弾頭各個目標再突入弾(MIRV)も保有している。
中国に誤ったメッセージを送らないためにも、追加削減はすべきでない。
(聞き手=ワシントン・早川俊行)