韓国は安保と歴史切り離せ 韓国世宗研究所日本研究センター長 陳昌洙氏(下)
2014世界はどう動く
識者に聞く(13)
日韓関係
――朴大統領は昨年、初の訪米で慰安婦問題などを持ち出した。外遊先で“反日行脚”までする必要があったのか疑問だ。
海外に行って日本を批判したのは多少行き過ぎだったと思う。ただ、中国訪問の際などは自分からその問題を切り出したというより記者の質問に答える形で指摘したので、誤解されている面もある。慰安婦問題は朴大統領自身、韓国初の女性大統領であり、被害者の女性たちがすでに平均80代後半という高齢であるため、一刻も早く解決すべきだというのが韓国の世論だ。韓国政府としてはこの問題で何もしないというわけにはいかない。
――慰安婦問題の強制性を認めた河野談話や被害女性への見舞金を手渡したアジア女性基金など日本もそれなりの誠意は見せた。韓国が日本に求めるいわゆる「過去の問題の清算」とは、いったいどこまですれば納得するのか。
それは国としての法的責任を日本が認めることだと思う。韓国がこだわっている点は補償ではなく名誉回復だ。もちろん日本としては強制性を示す証拠はないというのが公式的な立場となっているが……。
そこで妥協点を探ることが大切だ。例えば、仮に河野談話より一歩踏み込んだ表現を盛り込んだ談話を発表することにした場合、一字一句をめぐり日韓双方が譲歩し合わなければならない。現在、問題になっている戦時徴用工訴訟でも日韓請求権協定で賠償は終わっているということを韓国政府も認めたのだから、そこは覆さずに見舞金のような形で被害者を支援する政治決断をする。その一方で、日本政府にも人道的見地から見舞金をお願いするという方法が考えられる。
――北朝鮮はナンバー2だった張成沢・朝鮮労働党行政部長を処刑し、今年は情勢が不安定になる可能性がある。こんな時にこそ日韓の協力は重要になる。
北朝鮮は外圧による独裁政権崩壊を何よりも警戒しているだろうが、周辺国としてはこれ以上、北朝鮮が“暴走”しないよう緊密に連携することが必要で、日韓は北東アジア情勢の安定化に向け一緒にやるべきことがたくさんある。
――最近、南スーダンで国連平和維持活動(PKO)に参加する韓国軍部隊が自衛隊から弾薬1万発を提供されたことをめぐり日韓がぎくしゃくした。安保協力に歴史認識を絡めるのはいかがなものか。
弾薬提供の件は韓国側の対応が間違っていた。安倍首相の靖国参拝で敏感になり過ぎ、外交問題化してしまった。韓国側が感謝の意を表して終わっていれば、それを見て「韓国は安保と歴史認識を切り離しているんだなあ」という好印象を日本の世論に与えることもできたのに。韓国は安保は安保、歴史認識は歴史認識で切り離して対応するのが望ましい。
――韓国は中国と一緒に日本批判を強めているという印象を日本に与えている。
韓国政府の発言を見れば分かるが、中国と協力して日本を批判するという発想はないし、その必要もない。
――冷え込んでいる日韓関係を改善させる糸口は。
当面は歴史認識や政治的懸案は避け、経済や文化など比較的ソフトな分野で協力を進め、多国間協議などマルチの場を利用する“迂回(うかい)戦略”が望ましい。弾薬提供などのように多少なりとも日韓が近づけるチャンスはこれからも訪れるはずだ。
(聞き手=ソウル・上田勇実)