移民問題はEU基金で対処を ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス客員上級フェロー ヘニング・マイヤー氏(下)
2014世界はどう動く
識者に聞く(15)
EUと英国
――移民に対する福祉手当などが問題になっているが、EU移民問題にはどう対処すればよいのか。
公共サービスのための基金を自動的に増やすメカニズムがなく、国や地方自治体は取り残されている。EUレベルでの問題解決があるべきだ。自分は、EU内の移民には追加の公共サービス基金が伴うことを保証する“欧州移民基金”を提案している。欧州レベルでの取り組みが必要だ。
――EUの経済大国であるドイツはEU内でいかなる役割を果たすべきか。新連立政権はもっと指導力を発揮するのか、協調重視でいくのか。
多くの国がドイツに指導力を求めているが、独連立政権はEUに好ましいことを行いそうだ。EU再構築の一般の道のりはまだ変化していないが、ドイツの国内的問題は意図しないでEU全体に対してポジティブな結果をもたらすだろう。例えば、ユーロ圏の不均衡だ。ドイツの国内需要の欠如は大きな貿易黒字を出して恒常的な問題になっている。新政権は最低賃金制の導入によって約600万人のドイツの労働者の賃金が上昇し、独経済の国内需要を増して、ユーロ圏不均衡是正にも寄与するという良い結果をもたらすことになる。
――英国は最近、ドイツに対してEUの中央集権的な官僚主義の改革が必要だと主張しているが、加盟国の権利を尊重する改革は進むだろうか。
エリートたちによって進められてきたEU統合プロセスは限界に達しているように思われる。結局のところ、ユーロ圏での危機も民主的に合法化された前進によってのみ解決されうるだろう。さもなくば解体に向かうことになり、それは政治的、経済的、社会的な大失敗ということになる。
――英国は共通市場は必要としながらも、政治経済統合は拒絶するというEUに対して二律背反する思いを抱いている。保守党政権は17年末までにEU残留か離脱かを問う国民投票を実施すると約束している。英国はEUを離脱した場合に有利だろうか。
英国はEUの外では有利ではないと思う。英国内でのEU統合論議はこれまで長い期間毒気に満ちている。それで国民投票が必要だ。
英国での議論は現実に基づいていない。例えば、英国はEUの他の多くの国々にとって最大の輸出国になっており、英国が離脱した場合でもこの貿易関係の逆転は起こらないという議論がある。しかし、離脱した場合は英国と残り27カ国との貿易関係は悪化する。他方、英国からEU27カ国(このうち、英国の最大輸出国4カ国、ドイツ、フランス、オランダ、アイルランドが含まれる)への輸出も悪化することになる。1対27の関係だから、大きなダメージを受けるのはEU側ではなく、英国の方だ。
スイスが中国と行っているように2国間貿易交渉でうまくやれるという議論もあるが、英国は小国スイスとは異なっており、あてはまらないケースだ。英国はEU内にとどまる方が有利だ。
――東アジアでは、中国が最近、防空識別圏を一方的に宣言するなど拡張主義を取っており、緊張が高まっている。中国は第1次世界大戦前のドイツのようだとも言われている。EUは人権問題や公正貿易などの問題を通じて中国に対していかなる外交政策を取るべきか。
これは難しい問題だ。これまで中国との政治的経済的関係を築く中で人権問題などが取り上げられてきたが、打開の道はなかった。EUは躍動する東アジア諸国に関してどちらかの側について特定の立場を取るのではなく、調停的な立場にあると自覚している。EUが(東アジア情勢に)深く関与することはないと思う。
(聞き手=ロンドン・行天慎二)