英政府、シェールガス事業に本腰
新エネ開発 前途多難
環境破壊へのリスク残す
英政府は、米国で起きているシェールガス革命に続くべく、国内でシェールガスの採掘・生産を推進しようとしている。ただ、「新たな北海油田」への大きな期待がかかる一方、国内エネルギー問題の抜本的解決策にはならないという意見や、環境破壊へのリスクを懸念する声が上がっている。
(ロンドン・行天慎二)
ガス価格下落への期待疑問
税優遇措置で採掘推進
キャメロン首相は13日、イングランド東部リンカンシャーにあるシェールガス鉱区を視察した際に、「シェールガスはわが国にとって重要だ。7万4000人の雇用、30億ポンド以上の投資をもたらし、将来エネルギー価格が安くなり、エネルギーの安全保障が高まる」と語った。
この日、英政府は事業用資産に関する地方税率を引き上げて、地方自治体がシェールガス開発事業を積極的に誘致するよう促す措置を発表した。これに先立って、先月初めにはオズボーン財務相が財政経済演説の中で開発事業主への課税率を欧米諸国の中で最低にすると発表するなど、シェールガスの採掘・生産に向けて、企業や地方自治体に対し税優遇措置を打ち出している。また環境庁(独立行政法人)は今年、採掘活動の申請許可を簡素化して迅速に行う(13週間から2週間に短縮する)方針を示している。
今後の採掘活動に関して、ファロン・エネルギー担当相はここ2、3年間に20~40カ所で新たな採掘活動が始まると述べている。採掘場所は中部から北部のイングランドが中心だが、人口が多い南部イングランドの丘陵地帯も含まれている。潜在的には国土の半分でシェールガスの採掘が可能であり、最大限2880カ所で井戸を掘ることができると言われている。そして、各井戸が約20年間産出するとすれば、一つの井戸の産出ガス総量だけで現在の英国の年間ガス使用量の4分の1を充当することになる。また、中部イングランドでの採掘可能な推定埋蔵ガス量は最低でも英国の今後50年間のガス消費量を賄うことができる量だと報告されている。それ故、ビジネス界からは「新たな北海油田」だとの大きな期待を寄せる声も出ている。
英国のエネルギー消費のソース別割合は2012年現在で、ガス34・6%、石油33・6%、石炭19・2%、原子力7・8%、風力2・3%、バイオ・エネルギー1・86%、水力0・59%、太陽熱0・15%などとなっているが、ガス使用量が最も多い上に年々消費量が増加している。
北海油田の枯渇が進んでいる英国は04年以降、エネルギー輸入超過国に転じており、シェールガスの国内生産が待ち望まれている。
しかし、生産量の確実な見通しと採算性、消費者向けの安いエネルギーの確保などの課題が残されているほか、狭い国内で採掘・生産活動が活発になれば環境破壊が深刻化する懸念もある。
英王立国際問題研究所の特別フェロー、ポール・スティーブンス氏は、米国でのシェールガス革命は25年以上にわたる調査研究と採掘技術の開発、有利な地質、自由競争などに支えられているのに対して、英国はこうした条件が整っておらずシェールガスの生産と採算性に疑問を投げ掛けている。また、たとえ国内ガス生産量が増えても、英国は欧州大陸のガス市場と連結しているためにガスの小売価格は必ずしも下がらず、英国の消費者には還元されないと指摘している。同氏は14日付ニューヨーク・タイムズ紙上で「米国と異なり、英国ではシェールガス革命によって価格下落は起こらない」と主張している。
採掘・生産に伴う環境問題に関して、英政府の報告書は、シェールガスの生産・輸送における温室効果ガス排出量は輸入液化天然ガスによる排出量よりも少ないとしている。だが、メタンを主成分とするシェールガスは通常の天然ガスよりも多くの二酸化炭素を排出するとの結果が新たに判明しており、温室効果ガス削減にはつながらず、再生可能エネルギーの代替にはならないと批判されている。また、採掘の際には地下水汚染や誘発地震が起きる可能性も指摘されている。
このため、緑の党、それに「グリーンピース」などの環境保護団体は既に採掘現場での抗議行動を何度か行っている。今後、英国の狭い国土の中で次々と採掘作業が始まった場合には地元住民からの反対運動も起きる恐れもある。
英国でのシェールガス開発事業は前途多難であり、米国流のシェールガス革命の流れには便乗できそうにない。