中国国家安全委は危機管理ではなく創出へ 拓殖大学客員教授 石 平氏(下)


2014世界はどう動く
識者に聞く(19)

400 ――昨秋の3中総会(中国共産党中央委員)では国家安全委員会設置が決まった。中国版NSCのトップは誰になるのか。

 3月の全国人民代表大会(全人代)で決まるが、今の状況では習近平氏がトップに就任する。そもそも国家安全委は習氏が自分の下に、権力を集中させるためにやったものだ。

 国家安全委には公安、武装警察、司法、国家安全部、解放軍総参謀本部、外交部などが組み込まれており、すべての権限がこの委員会に集中する。

 これまで公安、武装警察、司法などを統括していたのは政法委員会だったが、昨年秋の共産党大会で政法委員会トップを最高意思決定機関である共産党常務委員会から外すと共に、周永康氏を訴追で追い込み影響力をそぎ落とした。権力の真空状態を作り出して、自分が取ろうとしたのだ。

 しかし、国家安全委というのはただの装置にすぎない。それを発動させるには危機がないといけない。

 危機が発生することで委員会を発動させ、それで一気に権力を掌握できる。習氏は装置をつくっただけでは満足しない。

 習氏とすれば、委員会ができた後、いかに危機をつくり出すかが課題となる。

 国家安全委とは、いわゆる危機回避の委員会ではなく危機をつくり出していく権力の伏魔殿だ。そうしないと意味がない。

 ――日中関係や南シナ海は「乱の時代」を迎えるということか。

 そういうことだ。今の状況からすれば、日本に向かってくる懸念は大きい。

 年末の総理の靖国参拝で、中国は全面対決するような今までかつてないほどの猛反発ぶりだった。

 ――防空識別圏や南シナ海の漁業区設定など、そういう布石の上にあった?

 そう思う。しかも、権力集中だけではない。一旦、不動産バブルが破裂して経済が沈没すると対外的に強く出る必要がある。

 ――冒険主義の発動で国内の矛盾から国民の目をそらさせる。

 共産党政権維持の必要性や権力掌握の視点からしても、いずれ何かをやるしかない。

 ――ターゲットは日本?

 国内の状況からすると、日本に対してやるのが一番、やりやすい。国内でほとんど反対がなく、国民の求心力を高め、権力掌握の手段として有効だからだ。

 とはいっても、日本に対して矛先をむけた場合の危惧は日米同盟だ。要するに、米と正面衝突するリスクを冒せるかどうかだ。

 そういう意味では南シナ海で事を起こす可能性もある。

 ――少数民族問題は?

 チベット人の反抗が、中国共産党統治を内部から崩すことは無理だ。

 ただ、焼身自殺など涙が出るほどの反抗が、国際的に大きな同情を呼び、中国に対する批判を高める効果はある。

 中国にとって本当の脅威になるのはウイグル人だ。扱いを間違えば、中国はイスラム最大の敵になる。毎月、何十人ものウイグル人が殺されている。あのやり方を続けると、イスラム世界は中国を敵視せざるを得なくなる。

 今、ウイグル人とは戦争状態だ。この戦争は中国にとって勝ち目があるようで、実は勝ち目がない。勝ち目があるというのは鎮圧できるということだが、鎮圧すればするほど中国の負けになる。

 ――墓穴を掘る?

 そうだ。世界のイスラムを敵に回すことになるからだ。力による鎮圧を強行すればするほど、中国政府は泥沼に入ってしまう。中国のベトナム戦争みたいなものだ。そういう意味では米にとって代わって、イスラムが中国の前に立ちはだかるシナリオも出てくる。

(聞き手=池永達夫)