米の主導的役割を軽視するオバマ政権 元米上院議員 ジェームズ・タレント氏(上)
2014世界はどう動く
識者に聞く(1)
米国の影響力低下の中で、東アジアの緊張や混迷を深める中東など今年の世界の動向を、識者に分析し展望してもらった。
オバマ外交
――オバマ政権の下で米国の国際的影響力が低下している。
冷戦終結以降、米国の役割はどうあるべきか、明確な方向性が定まらずにいる。冷戦時代は、米国がソ連共産主義を封じ込め、打倒しようとしていたことを国民は理解していた。だが、今は、米国が世界で主導的役割を果たすことがなぜ国益となるのか、国民はそのつながりを理解できずにいる。
1990年代に方向性が定まっていれば、その流れはオバマ政権にも影響を与え、より積極的な行動につながっていたと思う。オバマ大統領は過去の大統領に比べ、国際問題の最前線で主導的役割を果たす必要性を強く信じていないように見える。
――米国は孤立主義の方向に向かっているのか。
米国民は長期化したイラク・アフガニスタン戦争に疲れ、国際問題の関与に懐疑的になっている。ただ、これにはサイクルがあり、積極的な関与への支持が高まる時期もあれば、低下する時期もある。米国が今、消極的だからといって、この傾向が無制限に続くと判断すべきではない。
私が懸念するのは、米国が国際問題から手を引くかどうかではなく、パワーの重要なツールである軍事力を弱体化させてしまっていることだ。軍事力が必要になった時に増強しようとしてもすぐにはできない。海軍艦艇を1年で50隻建造するのは不可能だ。国際問題への関与に消極的な時代にあっても、抑止が必要な時のために適切なレベルの軍事力を堅持しなければならない。
オバマ氏はハードパワー、ソフトパワーの両面で強い米国を維持すると主張しているが、行動が伴っていない。米国のパワー低下を放置している。「力による平和」は具体的な力が伴わなければあり得ない。軍事力の低下により、米国の基礎的な国益に対するリスクが増大している。
――シリア化学兵器問題をめぐるオバマ氏の優柔不断な対応は、国際問題に対する米国の意志に疑念を生んだのでは。
その通りだ。米大統領は、世界のある一つの地域で取った行動が全世界の米国観に影響を及ぼすことを自覚しなければならない。化学兵器使用が深刻な問題だったとしても、特定の問題を取り上げてレッドライン(譲れない一線)を引いてしまったことはそもそも誤りだった。だが、そうしてしまった以上、断固たる行動を取らなければならない。さもなければ、他の国々に米国の決意に疑いを抱かせることになる。
――オバマ政権はイラクから米軍を完全撤退させた。
過去数年間で最悪の誤りだ。イラクは対テロやその他の課題で協力できる中東の同盟国となる可能性があった。イラクに兵力を残しておけば、この重要な関係を強化することができたはずだ。
イラクに米国のプレゼンスと協力関係があれば、シリア内戦もあそこまで悪化していなかったかもしれない。イラクはイランとロシアがシリアのアサド政権を支援する物資を空輸するために、領空を通過させている。
オバマ政権がイラクとの協力関係を構築しようとしなかったのも、世界における米国の役割をめぐる戦略的枠組みの不在が焦点をぼかしてしまっていることが背景にある。
――昨年11月のイラン核開発をめぐる合意をどう見る。
合意にはイランが核開発を中止するという何の確証もなく、大変憂慮している。制裁をいったん緩和してしまうと、再び科すのが難しくなる。検証に関する条項も不十分だ。
(聞き手=ワシントン・早川俊行)