70歳就業、柔軟な制度設計が欠かせない
政府は未来投資会議(議長・安倍晋三首相)で、成長戦略の方向性を取りまとめた。70歳までの就業機会確保については、企業に「多様な選択肢のいずれかを求める方向」と明記し、将来の義務化を検討する方針を示した。
少子高齢化が進む中、高齢者の雇用促進は労働力確保のために欠かせない。高齢者の健康状態などにも配慮した制度設計が必要だ。
来夏に実行計画まとめる
65歳までの雇用確保をめぐっては現在、定年の廃止や引き上げ、継続雇用制度のいずれかが企業に義務付けられている。70歳までの延長は、当面は努力義務にとどめ、企業の対応を促す考えで、政府は来夏に3年間の工程表を含む実行計画をまとめ、2020年にも関連法案を国会に提出する方向だ。
高齢者の就業拡大を目指すのは、少子高齢化によって社会保障制度の持続可能性が危ぶまれていることが背景にある。政府が今年5月に公表した試算結果によれば、40年度時点の社会保障給付費は最大190兆円に達する。高齢者の年金・医療・介護費用が大幅に伸びるのが原因で、今年度(121兆3000億円)の約1・6倍に膨らむ計算だ。
現行の定年制などを見直し、65歳以上でも意欲・能力のある高齢者が働き続けられるような制度改革が求められる。仕事を続けることなどで健康寿命が延びれば、社会保障費の抑制につながることも期待できよう。これに関連して政府は今回、自営業者ら向けの国民健康保険を担う自治体や企業の健康保険組合に対し、病気予防の取り組みで高い効果を上げた場合の支援を大幅に強化する方針も示した。
日本老年学会などは昨年1月、65歳以上とされる高齢者の定義を75歳以上に引き上げるべきだとする提言を発表。65~74歳は準備期間として「准高齢者」と区分するよう求めた。
提言は、現代人は10~20年前と比べ、加齢に伴う衰えが5~10年遅く、「若返り」が見られると指摘。65~74歳は就労やボランティア活動ができるよう後押しし、「社会の支え手」として捉え直すべきだとしている。こうした見解は妥当なものだと言えよう。
ただ、70歳となれば健康状態の差も大きい。就業機会確保に関しては、こうした点にも目配りし、短時間や在宅での勤務など柔軟な働き方の選択肢を設ける必要がある。
さらに政府は今回、原則65歳としている公的年金の支給開始年齢は変えないが、70歳超から割り増しした年金を受け取り始めることもできるよう、受給開始時期の選択幅を広げる方針を示した。高齢者への配慮として、支給開始年齢を現行のままにすることも適切だろう。
知恵や経験を生かしたい
企業の人手不足は深刻で、政府は働き方改革を通じた業務の効率化、女性や高齢者の活用に取り組んでいる。外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正案は、今国会の大きな焦点となっている。
高齢者の知恵や経験を日本経済の成長や社会の活性化に生かしたい。