日中首脳会談、注意を要する「一帯一路」協力
今年、日中平和友好条約発効から40年の節目を迎えた中、安倍晋三首相が中国を訪問して習近平国家主席や李克強首相らと会談した。
国際会議出席を除いた日本の首相訪中は7年ぶりとなる。一衣帯水の日中とはいえ、両国間に横たわる溝の深さがうかがえる7年間だった。
覇権構築のための布石
隣国同士が友好を深めることは喜ばしいことだが、中国との融和路線をリードしたい公明党や二階俊博自民党幹事長らに影響され、国家の舵取りを誤るようなことがあってはならない。とりわけ警戒を要するのは、目先の利益を優先して大局観をなくすことだ。
その意味で、安倍首相が李首相との会談で中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」に関し、東南アジアなど第三国でのインフラ整備を通じた日中協力の強化などを打ち出して一致したことには注意を要する。
中国が国策として推進する一帯一路は、中国による覇権構築のための布石という意味合いが強い。表看板は「平和的共益共存の互恵関係を柱とする」というものだが、本当の狙いは軍事的拠点の構築と影響力拡大だ。
「一路」という海のシルクロード構築は「真珠の首飾り」と言われるスリランカのハンバントタ港やミャンマーのチャオピュー港、バングラデシュのチッタゴン港、パキスタンのグワダル港などインド洋での港湾整備が顕著だ。人民解放軍の軍人が図らずも吐露したように、一路の真の目的は海洋覇権を握ることだ。
米国の戦略研究者アルフレッド・マハンは、後発国が覇権を握るには海洋の安全を担保できる艦船やそのバックグラウンドとなる造船能力にドック・港湾といった基礎インフラを含めた「海上権力」を持つことが肝要だと説いた。そのマハンの「海上権力史論」をバイブルにしているのが中国海軍であり、一帯一路で力を入れているのが、海上交通の要衝を確保する基地構築だ。
欧州連合(EU)27カ国の駐北京大使は今春、一帯一路について「自由貿易を打撃し、中国企業の利益を最優先している」との批判報告書を提出した。またポンペオ米国務長官は、メキシコの首都メキシコシティで開催されたラテンアメリカ会議で「一帯一路では8国家が『借金の罠(わな)』に落ちている。中国はプロジェクトを高金利の条件で取り込み、環境を破壊し、地元の労働力を使わず、賄賂を配って当該国の真の発展に寄与してはいない」と批判した。
その米国は2019年度予算で、海外民間投資公社(OPIC)を基軸とする海外援助のための予算を300億㌦から600億㌦へ拡大することを目指すとした。一帯一路に対抗する海外援助体制を構築する狙いだ。一帯一路の真の目的が中国による覇権構築にあるならば、それに代わる受け皿をつくらなくてはいけないからだ。
将来に禍根を残す懸念
その意味でも、安易な中国との一帯一路での協力は、将来に安全保障が絡んだ禍根を残す懸念がある。