首相国連演説、外交力試される戦後構造脱却
安倍晋三首相は国連一般討論演説を行い、自由貿易体制の強化への努力と「北東アジアから戦後構造を取り除くために労をいとわない」ことを強調し、特に北朝鮮の邦人拉致問題、核・ミサイル問題の解決へ最大の関心を示した。第2次世界大戦、東西冷戦を経て複雑になった北東アジア情勢を好転させる上で日本外交の力量が試される。
自由貿易体制を高く評価
自民党総裁選で3選を果たした安倍首相の演説には、自身の地球儀を俯瞰(ふかん)する外交の集大成に向けた決意が見て取れた。しかし、貿易の自由と海洋の自由を保つには、中国の海洋進出への対処と共に、貿易問題で緊張が高まる米国と中国の間で難しい舵(かじ)取りも迫られよう。
米国のトランプ大統領は同じ一般討論演説でも米国第一主義を掲げ、中国との貿易の不均衡を強く批判した。米国の中国への制裁関税から米中貿易戦争がエスカレートする一方、中国は保護主義に警鐘を鳴らす世論戦に動きだしている。
首相が演説冒頭でわが国が戦後、貿易立国として「奇跡の成長」を果たしたことを指摘し、自由貿易体制を高く評価したことに異論は無いだろう。
米国離脱後の環太平洋連携協定(TPP)を11カ国で成立させ、欧州連合(EU)とわが国との経済連携協定(EPA)を成立させたことも一つの実績だ。
また首相は、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉に全力を注ぐと強調した。その上で、中国の習近平国家主席との「本年始まった首脳間の往来」に触れ、中国に配慮を見せている。
一方で首相は、北極海から日本海、太平洋、インド洋へと抜ける海の回廊の安全を図る「自由で開かれたインド太平洋戦略」について説明し、「洋々たる空間を支配するのは、制度に裏打ちされた法とルールの支配でなくてはならない」と訴えた。中国の南シナ海における人工島の軍事拠点化など力による現状変更に言及はなかったが、太平洋からインド洋の海洋の自由を守るには、この地域の国々の安全保障を確立する必要がある。
また、日露関係についても首相は「70年以上動かなかった膠着(こうちゃく)を動かそうとしている」と表明したが、ロシアは首相のウラジオストク訪問中に中国を初めて加えた軍事演習を展開した。北方領土返還の兆しもない。
首相は北朝鮮に対して、核・ミサイル問題と拉致問題解決を前提に日本統治時代の「不幸な過去」を清算し、国交正常化を目指す方針を改めて示した。今年の3度の南北首脳会談、6月の米朝首脳会談により日朝首脳会談の可能性も浮上している。ただ、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との首脳間外交活発化とは裏腹に肝心の問題解決の成果を得るかは予断を許さない。
日米同盟を緩めるな
戦後からの脱却は首相の政治信条であり、中露・北朝鮮との首脳外交には関係打開に期待感もあろう。が、わが国の外交力の根底には民主主義の価値観を共有する日米同盟があり、ここに緩みがあってはいけない。