安倍総裁3選、山積する課題に具体的成果を
任期満了に伴う自民党総裁選は、現職の安倍晋三総裁(首相)が石破茂元幹事長を抑えて連続3選を果たし、2021年9月まで3年間の追加任期を獲得した。国外では中国の拡張政策、北朝鮮の核・ミサイル開発、米中の貿易摩擦など緊迫する難題が山積し、国内でも少子高齢化、人口減少が加速しており国政の停滞は一刻も許されない。
地方で健闘した石破氏
首相は自ら掲げた政策課題――憲法改正、防災・減災・国土強靭(きょうじん)化、全世代型社会保障制度、戦後外交の総決算(北方領土・拉致問題の解決)など――の実現に向けて直ちに取り組み、目に見える形での成果を出してもらいたい。
首相の3選は昨年、大きな反対もなく2期6年の総裁任期を3期9年に延長した時点で予見されていた。何よりも自民党がまだ野党だった12年9月に再度総裁に就任して以来、5回の国政選挙(衆院選3、参院選2)すべてで勝利した上に、長期デフレからの脱却に目星を付け、集団的自衛権の限的行使を容認する安保法制を実現するなどの実績を挙げてきたためだ。
石破氏との一騎打ちとなった今回の総裁選でも、早々と主要派閥の支持を取り付けて国会議員票で石破氏を圧倒する態勢を作り上げ、首相としての激務を果たしながら各都道府県の議員団と精力的に会合を持って地方票の掘り起こしに力を注いだ。
その結果、国会議員票は329票と8割超の得票で石破氏を圧倒し、党員・党友による地方票でも「勝敗ライン」(甘利明選対事務総長)の得票率55%をわずかに超える224票を得て大勝した。ただ、石破氏は終盤まで50票台とみられた国会議員票を73票まで伸ばし、地方票でも得票率45%に迫る181票を得るなど健闘した。「アベノミクスの恩恵が地方に波及していない」などの批判が反映された結果である。首相には、謙虚で丁寧な国政運営を求める“天の声”だと肝に銘じてもらいたい。
今回任期が追加されたことで、首相の在任期間は来年2月に吉田茂、同8月には戦後最長を誇る大叔父・佐藤栄作、そして同11月には歴代最長の桂太郎も超える計算になる。来年7月の参院選が一つの山場となるが、対する野党は分裂してそれぞれ5%にも満たない低支持率(時事通信調査)にあえいでいる。そのため、歴代最長を更新する可能性は十分あろう。
首相は第1次内閣の時に「戦後レジームからの脱却」に憲法改正は不可欠だと公言していたが、失意の退任後に再登場してからはデフレ脱却など経済再生に政策の焦点を移していた。今回の総裁選では正面から憲法改正について論じ、当選後も改正への強い意欲を示した。最後の任期に当たり、背水の陣を敷いたと言える。
適材適所の人事を
首相は来週から外交日程が目白押しで、来年には皇位継承や消費税率10%への引き上げ、再来年には東京五輪が控えている。激動期に力を発揮するには、強固な組織基盤が必要だ。訪米後に予定される党役員人事と内閣改造が「論功行賞」でなく文字通りの「適材適所」で行われることはその出発点である。