18年度予算案に財政規律の面で危機感欠けると右も左も批判の各紙
◆社保費の伸びは枠内
「将来への不安に応えているか」(読売)、「危機感がなさすぎる」(朝日)、「歯止めなき膨張の危険性」(毎日)、「切り込み不足は否めない」(産経)、「財政規律の緩みが心配な来年度予算」(日経)、「目に余る政権の無責任」(東京)――
安倍晋三政権が2018年度予算案を閣議決定した翌23日付の各紙社説の見出し(本紙は24日付で「重点政策もっとメリハリを」)である)。
列挙した通り、リベラル系の朝日、毎日、東京ばかりでなく、保守系の読売、産経、日経も厳しい論調の社説を掲載した。
各紙とも批判の理由は、財政規律の緩みである。
18年度予算は一般会計総額が97・7兆円と6年連続で過去最大を更新したが、景気回復を背景に、税収は17年より1・4兆円多い59・1兆円を見込み、歳入不足を補う新規国債発行は33・7兆円と8年連続で減額となった。また、最大の支出項目である社会保障費の伸びも4997億円と、財政健全化計画で定めた年5000億円増の枠内に収めた、にもかかわらずである。
◆欠かせぬ不断の改革
読売は、税収増については「その見積もりの前提となる経済見通しには甘さが目立つ」とし、また社会保障費の伸びが枠内に収まったのは「大半は、薬の公定価格を市場実勢に合わせる薬価改定の効果による」もので、「早々に支出抑制の目標達成が視野に入ったことで、本格的な制度改革に踏み込む機運が失われた感がある」と指摘。産経も「抜本的な制度改革はみられず、安堵するわけにはいかない」というわけである。
安堵できず、なぜ本格的な制度改革が必要なのかは、「25年には団塊の世代が全て75歳以上になり、医療・介護費の急増が予想され」「改革を先送りする時間的余裕はない」(読売)、「『2025年問題』は目前に迫る」(毎日)からである。
確かに、この点は一理ある。いきなりの本格的あるいは抜本的な改革が難しいとしても、「持続可能な社会保障制度の構築に向け不断の改革は欠かせない」(本紙)ということである。
また、多くの新聞が問題視したのは、来年度当初予算案と同時に編成した今年度補正予算案である。「当初予算は厳しく精査されるため、足りない分を補正で手当てする手法が常態化している。見逃すことはできない」(産経)というわけで、今回も当初予算では国債発行額を抑え込んだが、補正では公共事業費などで建設国債を1・2兆円増発。「当初予算で財政規律を重視してみせても、補正予算でタガが外れれば元も子もない」(読売)からである。
ただ、そういう傾向は確かにあるものの、集中豪雨や台風、地震といった自然災害のほか、今回では欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)発効に備えた農業対策費などを計上しており、一概に「『抜け穴』がある」(朝日)とばかりは言い切れない面もあろう。
◆要注意のPB黒字化
こうした財政規律の状況から、各紙が注目するのは、首相が来年に提示する方針の新たな財政健全化目標である。毎日は「抜本改革に取り組む道筋を明示すべきである」と主張し、日経も「社会保障の制度改革も含め財政赤字の構造に切り込んだしっかりした案をつくり、PB(基礎的財政収支=プライマリーバランス)の黒字化を確実に実現してほしい」と注文を付ける。
しかし、この点は要注意である。目安として目標を掲げることは大事だが、日経が指摘するように「PBの黒字化を確実に実現する」ことに縛られて過度に歳出削減を実施することになれば、それこそ経済成長にマイナスとなり、その後の税収増に悪影響を及ぼす。財政健全化にも逆効果になるからである。
今回、厳しい論調ながらも、産経は是々非々の評価もみせた。全体的には「選択と集中により、予算を重点的に配分するのは当然だ。これにより、中長期的な成長力を高めようという狙いも悪くない」と評価。公共事業では三大都市圏の環状道路整備に重点が置かれたことには「物流の効率化を通じて企業の生産性を高める効果に期待したい」とも。「人口減少社会に対応した適正規模のインフラ整備を進めるべきだ」との主張は、同感である。
(床井明男)





