安倍政権の目玉「政策パッケージ」に厳しい批判を浴びせた各紙社説

◆肝心なところ後回し

 「理念を具体化する工夫が要る」(読売)、「待機の解消を優先せよ」(朝日)、「肝心なところが後回しだ」(毎日)、「働き手の減少に対処せよ」(産経)、「成長と財政両立の姿が見えない新政策」(日経)――。

 安倍政権の看板政策である「人づくり革命」と「生産性革命」を実現するために政府が8日に決定した政策パッケージに対する各紙社説(9日付、朝日のみ10日付)の見出しである。

 列挙した通り、保守系、リベラル系を問わず、厳しい見出しが並んだ。特に保守系紙で、産経が「どのような人材を育てようとしているのかが見えない」と批判すれば、日経も「問題が多い、と言わざるを得ない」と断じ、日本経済の最大の課題は潜在成長力の底上げと先進国で最悪の財政の立て直しの両立であるのに「その姿が見えず、もちろん『革命』の名に値しない新政策だ」と容赦ない。

 各紙の批判は、確かにもっともで、「人づくり革命」では幼児教育・保育の無償化をはじめ、大学などの無償化や保育士の処遇改善などが並ぶが、「『人づくり』とどう結び付くかについて、説得力のある説明は見当たらない」(産経)からである。

◆方向性には異論なし

 産経の論調が厳しいのは、見出しの通り、「少子高齢化で働き手世代は大きく減っていく。そうした中でも経済を伸ばしていくには、人々の能力を高め、成長を図っていかなければならない」という危機感からである。

 そのためには、国民一人一人が何度も学び直しをしながら、知識や技能を身に付けていくしかないだろう、ということなのだが、政府内での議論は、「『無償化』の内容や線引きに集中しがちだった」(産経)。

 政策の方向性については、各紙に大きな異論は見られない。「人手不足が深刻な保育士、介護職員の処遇を改善するのは、喫緊の課題であり、妥当である」(読売)、「高齢者に偏った社会保障を『全世代型』に変えるという方向性は正しい」(毎日)という具合である。

 問題なのは、「目玉事業である教育の無償化にちぐはぐさが目立つ」(読売)、「不透明な部分が多い」(産経)、「大事な論点がいくつか煮詰めきれず先送りされた」(毎日)ことである。

 ただ、この点については、「10月の衆院選の自民党公約を、そのまま形にした結果ではないか。内容を精査せずに、万人受けを狙った印象が強い」(読売)との批判もあるが、安倍首相が10月の衆院選で消費税増税の使途変更を表明したことから議論が始まったため、「その後、どれだけ吟味されたのか。短兵急にまとめた印象は拭えない」(産経)のは確か。要するに、時間が足りなかったということか。

◆絞り込み作業を怠る

 もう一つの特に論調の厳しかった日経は、高所得世帯を含めて無償化で大盤振る舞いするために、2020年度に国と地方の基礎的財政収支を黒字化する目標を先送りする必要があったか「疑わしい」とし、「費用対効果の視点から、真に支援が必要な人を絞り込む作業を怠ったのは残念だ」と指摘した。

 基礎的財政収支の黒字化目標は、それでなくても達成が難しい状況のため、必ずしも目標死守に拘泥する必要はないが、絞り込み作業がなかった点は同感である。

 この点は朝日も同様で、「家計に余裕のある人まで負担をなくすことより、真に支援が必要な人を支え、認可施設に入りたくても入れない状況をなくす方が先ではないか」と指摘する。

 他紙が「人づくり革命」だけを論評したのに対して、日経は「生産性革命」も含めて論評した。日経は前述の通り、財政規律への配慮も構造改革で潜在成長率を上げるという視点も乏しいとしたが、「『生産性革命』の名の下で、政府が減税により賃上げや設備投資を下支えしようというのは理解できる」と評価する。企業は過去最高水準の収益を上げているのに、賃上げや設備投資の動きは力不足だからである。

 同紙が他紙にない懸念を示すのは、成長と財政よりも、分配――今回の場合なら「人づくり革命」など――に過度に偏るならば、安倍首相の経済政策「アベノミクス」に「危うさは残る」としたが、経済紙らしい視点である。

(床井明男)