首脳会談での日米の海洋戦略一致を高く評価した日経の大胆な社説
◆対北圧力強化で一致
安倍晋三首相は、ゴルフ場で互いのサインを書き込んだ、<同盟をより一層偉大に>と刺繍(ししゅう)された言葉が輝く特製キャップをトランプ米大統領に贈った。
これに象徴されるように、初来日したトランプ大統領と安倍首相の親密な首脳会談やワーキングランチなど一連の行事は「日米の強固な結束を内外に示した」(読売7日社説)、「トランプ政権のアジア太平洋地域への積極的関与を担保するとともに、その中心となる『日米同盟の揺ぎない絆』(安倍首相)を世界に示すことができた」(小紙・同)ことは間違いなかろう。
首脳会談の最大のテーマは、核・ミサイルで暴走し眼前の危機をつくり出す北朝鮮問題である。両首脳が「取るべき方策について完全に見解の一致を見た」ことを確認したことを新聞は「今は最大限の圧力をかけるときであるとの認識で一致した点も大きい」(産経7日主張)、「米政府にも融和を志向する向きがある。両首脳が対話よりも圧力に軸足を置くことを改めて確認したことは重要だ」(日経7日社説)と肯定的に評価している。その上で、両首脳が中国の役割も再確認したことについて「最終的に外交手段で北朝鮮の政策転換を迫るには、中国の積極的な関与が欠かせない。/不測の事態に備えた抑止力強化も大切」(読売)との指摘も加えているのは妥当である。
◆日本外交に米が同調
二つ目の大きなテーマは、国際法を無視して力ずくの海洋進出を図る中国に対応する日米、インド、オーストラリアなどで構成する「自由で開かれたインド太平洋」構想である。この法の支配や航行の自由など共通の価値観に立つ新しい海洋戦略で日米が一致した。産経がこれについても「日本が推進してきた外交戦略に米国が同調するのは異例の形だが、中国主導の秩序形成を阻む上で有効だ」と高く評価したのは、これまでの論調から当然である。
驚いたのは日経の洞察だ。社説は北朝鮮問題より先に冒頭から、日米が海洋戦略で一致したことを「中長期的な地域安定への道筋を示したことは、アジアの平和と繁栄に資する」「より強固な枠組みに育ててほしい」と書き出し、以下、紙面の半分をこのテーマに割いたからだ。
まず、構想について「(外交・安保の世界では)大ぶりな構想をぶち上げ、パワーゲームの主導権を握ることも意味がある」と評価。経済圏構想から徐々に安保色を帯びてきた中国の「一帯一路」の「この流れに待ったをかけるには、国力にやや陰りが見られる米国が『アジア関与』を語る程度では十分ではない。自由主義と市場経済という普遍的価値を共有する国々で、西アジアから太平洋地域に及ぶ連携の輪を築き、互いに助け合うことで影響力を強める必要がある」と、踏み込んで説いているからだ。中国も目を白黒させるような、日経にしては何とも大胆な言説は、さらに「『自由で開かれたインド太平洋戦略』は、トランプ氏が多国間の枠組みに理解を示した初めての事例である。このことの意味の大きさをよく認識したい」と畳み掛けるのである。
これに対して、朝日(7日社説)は「北朝鮮への対応で日米と中国が足並みをそろえるためにも、対中国牽制(けんせい)が過度に前面に出ることは望ましくない」、毎日(同)は「日本が対中抑止を主導し必要以上に中国を刺激することには慎重であるべきだ」と、それぞれ中国に迎合的な立ち位置の主張を掲げ、論調の違いが際立った。
◆日本人拉致も議題に
もう一つの大きなテーマは、人道、人権問題である北朝鮮による日本人拉致問題である。トランプ氏は曽我ひとみさんなど拉致被害者やその家族と面会し「安倍首相とともに、母国へ戻れるよう尽力したい」と語ったことが大きく報道された。
だが、この問題をしっかり社説で取り上げたのは読売、小紙、産経だけであった。トランプ氏のメッセージを読売は「家族にとって、力強いメッセージとなったであろう。北朝鮮は米国民も拘束している。日米の連携で解決への機運を高めたい」と言及。産経は「拉致問題は、トランプ氏が述べたように『北朝鮮の悪行』であり、必ず解決されなくてはならない人道、人権問題である」と訴えたのである。
(堀本和博)