衆院解散表明、「国難突破」への政策競え


 安倍晋三首相は臨時国会冒頭で衆院解散に踏み切る意向を表明した。その理由として首相は消費税の使途の変更と北朝鮮情勢への対応を挙げ、「国難突破解散」だと命名した。各党は、この問題について政策を競うとともに、独自の国策を提示して国民に訴えるべきである。

国民の低い安保意識

 安倍首相がまず訴えたのは、2012年12月の政権復帰以降の経済政策である「アベノミクス」の成果だった。確かに雇用が促進され、求職者1人当たりの求人数を示す有効求人倍率もバブル期を超えた。25日発表の9月の月例経済報告でも景気回復の長さについて「9月まで58カ月と戦後2位の『いざなぎ』を超えた可能性が高い」との認識が示された。

 ただ一方で、大都市と地方の格差は大きく、回復の実感が乏しいことも確かだ。首相はさらにアベノミクスを推進する考えを強調したが、「アベノミクスは失敗した」とする野党側は、単なる批判ではなく、アベノミクスに代わるポスト・アベノミクスの経済政策を提示して国民の審判を仰ぐべきである。

 19年10月に予定する消費税率10%への引き上げに伴う増収分の使い道を見直すことについても首相は「速やかに国民の信を問わねばならない」と語った。もともと消費税の増税分を社会保障に使うとの自民、公明、民主(当時)による12年の3党合意を先延ばしした上、その内容も変えてしまうというのだが、あまりにも説明不足だ。これにより財政健全化目標が先送りされるが、党内議論を積み重ねた形跡はない。他の方法で財源を捻出できないのか。この「国難」を克服するためにも各党は知恵を出し合って建設的な論戦を展開すべきである。

 第二の「国難」と言える北朝鮮による核・ミサイル危機も緊急事態である。米朝トップの言論戦による緊張感はピークに達している。北ミサイルのわが国本土上空通過は6回にもなる。

 国民の防衛意識が低いことも「国難」だと言えるが、この明白な脅威から目を背けてはならない。われわれはそれを直視し、進んで安保政策の中身を議論したい。民進党も安保関連法の廃棄を主張するだけでなく、代案を提示して国民の生命と財産を守る覚悟を明らかにすべきである。

 今回、東京都の小池百合子知事を代表とする新党「希望の党」が発足することになったのも好機である。第1次安倍政権下で防衛相を務めた小池氏の国防政策を聞き、安倍政権とどう違いがあるのかを確認したい。

 また、同党は憲法改正を政策の柱の一つに掲げることを明らかにしている。同党の出現によって、選挙中の改憲論議が活発化することを期待したい。改憲を目指す首相にとっても歓迎すべきことだろう。特に、自民党が公約に掲げる自衛隊の根拠規定追加案について大いに論戦してもらいたい。

「加憲」提案せぬ理由示せ

 公明党も民進党の前原誠司代表も、かつては首相と同様、自衛隊を9条に「加憲」する考えを示していた。それをなぜ引っ込めたのか、その理由も明確にすべきである。