日本ファースト、二大政党制の行き詰まり打破から意義論じた小紙

◆同志を糾合する素地

 「国会議員1人の政治団体の設立が、これほど注目されるのは異例だ。既成政党が国民の期待に応え切れていないことの裏返しと言えよう」(読売・社説10日付)

 先の東京都議会選挙前に自民党を離党した若狭勝衆院議員が7日の記者会見で、政治団体「日本ファーストの会」の発足を発表した。若狭氏は小池百合子都知事が事実上率いる地域政党「都民ファーストの会」と連携し、国政政党を年内に結成することを目指す一方で、別に次の国政選挙に立候補できる人材発掘のための政治塾「輝照塾」を9月に開講する。

 記者会見で「二大政党制、今の自民党の『受け皿』をつくるべきだと強く情熱をもって考えられている人と、これから協議を進めていく」と述べた若狭氏の動きは、日本の政治構造を大変革していく可能性を秘めている。「安倍1強」への批判や民進党が長期低迷する中で「民進党とは異なる、新たな政治勢力の結集に向けた動き」(産経・主張14日付)や「無党派層など非自民票の新たな受け皿作りを進める戦略」(読売・同)は、確かに的を射っている。今はたった1人でも、同志を糾合して拡大していく素地があることを否めない。

 自民党が大敗した先の都議選の結果は同時に、都民が民進党に対して自民党の「受け皿」となることをほとんど期待せず、突き放したに等しいことを示した。政権時の失政続きに失望した国民の不信は根強い。その上に、都議選前の候補者の相次ぐ離党、共産党との選挙協力問題は長島昭久氏や細野豪志氏ら将来を背負う人材まで党に見切りをつけたこと、保守系と旧社会党・労組系との根深い路線対立が続くことなどで、すでに9月1日の代表選次第での党分裂も取り沙汰される始末。とても自民党の「受け皿」どころではない、失速寸前の内情をさらけ出しているからである。

◆理念の明示を求める

 問題は「政党は『不満の受け皿』というだけでは成り立たないし、長続きもしない。理念や政策が当然必要」(毎日・社説9日付)なのに「日本ファーストが国政で何を目指すのか、肝心の具体像が見えないこと」に言及した読売は「まずは、新党の具体的な理念と政策を示すべき」ことを求めた。「憲法改正や、経済再生、外交・安全保障にいかに取り組むか。これを明確にしなければ、国民は判断のしようがない」と言うのである。

 産経も「新たな『受け皿』を標榜(ひょうぼう)するというにしては、経済・財政政策や外交・安全保障など基本的なスタンスが不透明すぎる」と強く批判し「少なくとも、いま、国政に臨む新党が目指すべき政策目標などについて、自らの考えを明らかにしてもらいたい」と迫る。

 各紙が理念と政策の明示にこだわり、やや懐疑的なのは、これらをあいまいにしたままで大衆迎合の党名とキャッチフレーズの空気に乗せられて、期待を裏切られてきた新党への苦い思いがあるからであろう。そのあたりを読売は「過去にも、既成政党への不満が高まった際、様々な新党が誕生した。離合集散の末、その多くは数年内に消滅した。小池氏が関与した日本新党も、その一つだ」、毎日は「小池氏が結党当初から参画した日本新党はじめ、これまで多くの新党ができては消えていくのを私たちは見てきた」と、今回は簡単には乗せられないぞ、と代弁している。

◆民進に代わる可能性

 まったくその通りではあるとはいえ、社説がそれと理念、政策欠如だけを言い立てて終わっているのもどうかと思う。もっと建設的な意義付けはできないのか。

 わが国が1994年の公職選挙法改正で小選挙区比例代表並立制に変えたのは、政権長期化による淀(よど)み、腐敗などを一掃するためであった。政権交代しやすい本格的な二大政党制が適度な緊張感を生み、その切磋琢磨(せっさたくま)で常に政治が活性化される期待があったからである。その一翼を担うはずの民進党が国民の信頼を取り戻す展望が見込めないために、二大政党制が行き詰ったのである。

 ここに民進党に代わって躍り出る可能性を秘めた新党の登場に、その可能性に踏み込んで論じたのが小紙(社説・12日付)。「(新党は)単なる批判票の受け皿づくりではなく、わが国の二大政党制の質を向上させる役割を果たしていくべきだ」「政策の違いの小さい保守政党同士が選挙で競い合えば、より良い政治を行い得る方が選ばれる」「二大政党制の再構築が願われる」とその意義を論じたのである。

(堀本和博)