終戦記念日の前後に自虐史観から日本軍批判の番組を並べたNHK

◆戦争防止に役立たず

 今年も「8月15日」を前後して、テレビでは戦争番組が多かった。毎年のことだが、特にNHKスペシャルで多かった。「本土空襲 全記録」(12日)、「731部隊の真実~エリート医学者と人体実験~」(13日)、「樺太地上戦 終戦後7日間の悲劇」(14日)、「戦慄の記録 インパール」(15日)などだ。

 BS1スペシャル「なぜ日本は焼き尽くされたのか~米空軍幹部が語った“真相”」(13日)のように、独立をもくろむ空軍の野望という米軍内部の事情に焦点を当てた番組もあったが、日本軍の混乱ぶりや理不尽さを強調した番組が多かった。

 民放にも「『海軍反省会』の証言 特攻作戦の真相」(BS日テレ=18日)があった。海軍反省会については10年前、NHKが取り上げており、新しい内容ではない。多くの命が失われたのだから、日本軍の意思決定の在り方を分析し、そこから教訓を導き出すことは必要だが、そうした番組は毎年8月、何度も放送されてきた。

 戦争番組を放送することの最大の意義は、戦争を防ぐことに役立てることだろう。早く敗戦を認めて犠牲を少なくすることができたのではないか、との観点の番組をいくら続けても戦争防止にあまり役立たない。

 終戦から72年もたつのに、日本軍の問題に焦点を当てて、そこから教訓を導きだそうとの番組ばかりが目立つのはなぜか。NHKをはじめとしたメディアがいまだに日本軍=悪という自虐史観の呪縛から抜け出せず、内向き思考に陥っているからだろう。「樺太地上戦」には、特にそれが表れていた。

◆問うべきはソ連参戦

 現在のサハリン南部は昭和20年まで、樺太としてわが国が領有していた。樺太地上戦とは、日ソ中立条約を破棄し日本に宣戦布告(同8月8日)したソ連と日本軍が終戦後の8月22日まで戦闘を続け、その結果、子供や女性を含め5000人以上の犠牲者を出した戦いのことだ。犠牲者には、ソ連兵が迫る中、電話交換の任務を果たし続けて、最後は集団自決した真岡郵便電信局の女性たちもいた。

 番組のメッセージは、日本軍が早く戦闘停止して武装解除していたら、終戦後に多くの命が失われることはなかったということに尽きる。また、ソ連兵に先に戦いを仕掛けたのは、日本軍だったとの描写もあり、日本軍批判の番組だった。

 だが、戦闘終盤での日本軍の混乱よりも、問うべきは日ソ中立条約を一方的に破棄して行われたソ連の対日参戦ではないか。戦後の世界で、共産主義の拡大を狙ったソ連の指導者スターリンの野望や、対日参戦を促すために、スターリンに譲歩し、樺太や千島列島をソ連に渡すことを約束した米大統領フランクリン・ルーズベルトの容共姿勢とヤルタ密約こそが根本問題だった。

◆戦争指導者に焦点を

 番組では、スターリンがルーズベルトとの密約で、樺太・千島の領有を認めさせた上、北海道北部の占領も求めていたことには軽く触れた。しかし、樺太における日本軍の抵抗がソ連軍の北海道占領を断念させたとの分析があることは無視した。

 また、北海道の占領について、病死したルーズベルトの後を継いだトルーマンはマッカーサーの手に委ねられるとして、スターリンの要求を拒否したことは説明した。しかし、ルーズベルトの政敵であった米下院議員ハミルトン・フィッシュの著書「ルーズベルトの開戦責任」によると、マッカーサーは「私が意見を求められていれば、ソビエトを対日戦に誘うことなど絶対になかった」とルーズベルトを批判している。

 戦後に公表された資料を見れば、日米開戦を欲したのは日本ではなくルーズベルトだったことは動かし難い事実だ。そのルーズベルトが誘って実現したソ連の対日参戦があったからこそ、樺太地上戦は起きた。また、ソ連の対日参戦には、スターリンの野望があった。

 こうした当時の国際情勢よりも、極限状況の中での日本軍の失敗や混乱、そして戦闘の恐ろしさを強調すれば、戦争防止につながると考えるのはあまりにナイーブ過ぎる。それよりも、戦争を欲した当時の指導者たちの野望に焦点を当てた番組の方が、戦争を防ぐために役立つはずだ。来年夏には、そこに焦点を当てた番組が作られることを期待したい。

(森田清策)