18歳成人は本当に必要なのか


 上川陽子法相は成人年齢を18歳に引き下げる民法改正案を秋の臨時国会に提出する考えを表明した。選挙権年齢はすでに18歳以上に下げられており、成人年齢もそれに合わせるためだ。だが、引き下げにはさまざまな問題点が指摘されている。そうした懸念は払拭(ふっしょく)されたのか。ここでも安倍内閣は丁寧な説明が求められる。

政治的な思惑が先行

 成人年齢の引き下げ議論は、憲法改正の手続きを定めた国民投票法から始まった。若年層の支持が多かった当時の民主党など野党が主張し、2007年に成立した同法は投票権年齢を18歳以上とし、附則で民法と公職選挙法の年齢条項も検討するとした。

 これを受けて法制審議会は09年に18歳成人を適当とする答申をまとめた。選挙権年齢は15年の公職選挙法改正で18歳以上となり、国政選挙では昨夏の参院選から実施された。自民党の特命委員会は15年に成人年齢も18歳に引き下げるよう提言した。

 こうした経過から明らかなように、引き下げ論は成人の意義や在り方が論議された結果のものではない。政治的思惑が先行したものだった。それで法制審の答申は18歳成人を適当とする一方で「消費者被害の拡大など様々な問題が生じるおそれがある」と指摘していた。

 18、19歳の半数以上は学生だ。専門学校生を加えると7割が高等教育を受けている。それが成年となれば「親権」から離れる。自動車購入などのローン契約や消費者金融からの借り入れも可能になり、高額な買い物をしても契約を取り消せなくなる。社会の商慣習に不慣れなため、マルチ商法などの被害に遭い、困窮化を招きかねない。答申はそんな懸念を示し、自立支援策を促していた。

 問題はそれだけではない。若年者の年齢条項がある法律は民法や少年法のみならず、喫煙や飲酒に関するもの、銃刀法や競馬法など約200件に上る。これらのうち条文に「成人」と書かれた法律は、民法改正で自動的に18歳に引き下げられる。競馬法は未成年者の馬券購入を禁じるとするので18歳以上であれば高校生でも買えるようになる。

 一方、少年法や未成年者飲酒禁止法、未成年者喫煙禁止法などは適用対象を「20歳未満」としているので、直接的には連動しない。だが、成人年齢の引き下げに伴って18歳論議が起こるのは必至だろう。

 少年法について弁護士の秋山昭八氏(教育問題国民会議理事長)は本紙の「ビューポイント」(7月27日付)で「非行を犯した18、19歳が少年の内面に迫る家裁調査官や少年鑑別所が行っている教育的な働き掛け、さらには少年院や保護司・保護観察官が行っている教育・指導を受けられなくなる。これでは、若者の立ち直りの機会は大きく減少し、再犯のリスクが高まる」と危惧している。

権利だけでなく義務も

 こうした懸念は他法にもあるはずだ。成人には権利だけでなく義務も伴う。答申が示した自立支援策について論議された形跡がない。そもそも成人年齢を18歳とする必要があるのか。根本的に問い直すべきだ。