第3次改造内閣 一歩退き政局の鎮静化図る

第3次改造内閣 信頼回復へ始動(上)

 第3次安倍第3次改造内閣が3日、発足した。急落した内閣支持率を挽回し政治への信頼を回復するため、安倍晋三首相は政権基盤を再構築し、安全保障や憲法改正などの重要諸懸案に本腰を入れて取り組んでいかねばならない。

 安倍首相は世襲議員の中では特に家系に対する思いが強いといわれる。それは首相が議員生命をかけて取り組む二つの課題を見ても明らかだ。憲法改正は祖父、岸信介元首相の悲願であり、北方領土問題の解決は父、安倍晋太郎元外相が取り組んだ課題だった。

 もう一人、忘れてはならないのが大叔父の佐藤栄作元首相だ。歴代2位で戦後最長の首相在任期間(2798日)を誇り、後継候補を党や内閣の要職につけて競わせる巧みな人心掌握術から「人事の佐藤」と呼ばれた。首相が今回、最もその知恵を拝借したかった人物だったろう。

 憲法9条に自衛隊を明記した改正憲法を2020年に施行する構想を示した5月初め、首相はまだ「安倍1強」を謳歌していた。しかし、その後、加計問題への対応の不備が露呈し、変則的な手段でテロ等準備罪法を成立させたことで国民の不満が一気に噴出。様々な暴露報道も加勢し都議選で自民党は歴史的な大敗を喫し、内閣支持率も急落。党内から、かつてない不満の声が漏れた。

 失意の退陣となった第1次政権末期を彷彿させる状況の中、今回の人事は信頼回復と反転攻勢に向けた最後のチャンス。首相は、専門性と実力を兼ね備えた人材をそろえた「結果本位の仕事人内閣」と名付けたが、総裁派閥の細田派が党役員と内閣から一歩退いて挙党態勢を築くと共に、「ポスト安倍」に向け流動化しそうな政局の鎮静化を図った人事となった。

 カギとなったのは第2次内閣発足以来、4年以上政権を支えてきた岸田文雄前外相の全面的な協力を取り付けたことだ。岸田氏は稲田朋美防衛相の辞任に当たって異例の外務・防衛両相を兼任。改造内閣では岸田派から野党追及の矢面に立つ防衛、文部科学の両相を含む最多の4閣僚が起用された。岸田氏は「ポスト安倍」を見据えて党務の重責を担いたい本人の意向を踏まえて政調会長に起用された。

 細田派の閣僚は3人で1減だが、2人留任のため新入閣は中川雅治環境相1人。党の総務会長も額賀派(竹下亘氏)に譲った。麻生派は岸田氏後任の河野太郎外相を含め1増の3閣僚となり、額賀派は茂木敏充政調会長が経済再生相として入閣して2閣僚を保った上に党総務会長を得た。二階派は今村雅弘前復興相の不適切発言による辞任もあって閣僚は1減ながら、党の幹事長ポストを維持した。

 首相と距離を置きつつ次期総裁選出馬を目指す野田聖子氏を閣内に引き入れ、「秘蔵っ子」や「お友達」を優遇するとの批判をかわし、石破茂元幹事長に近い梶山弘志、小此木八郎両氏を閣僚に起用したことも、石破氏を封じ込める布石との見方が強い。

 首相は、5月に発表した改憲日程にこだわらない意向を示すなど、謙虚な姿勢をアピールしているが、離反しつつある民心を呼び戻すのは容易でない。共産党との連携に傾く民進党が自公政権の「受け皿」となれない以上、当面は、結果を示して国民の信頼を回復する正攻法をとるだろう。だが、小池百合子東京都知事を中心とする国政新党の準備が整う前を狙った年内解散説も消えていない。波乱含みの政局はまだまだ続きそうだ。

(政治部・武田滋樹)