知事が仕掛ける代理戦
23日に火ぶたを切った都議選も中盤戦に入って、小池知事の都民ファーストと自民党の二大勢力ががっぷり四つに組む激戦となっている。
小池知事は、自民党都連幹部を主敵として定め、自らの懐刀を差し向けて代理戦を仕掛ける。
千代田区は定員1。都連幹事長を長く務め「都議会のドン」といわれた内田茂のおひざ元だ。内田は昨年夏の都知事選以来、小池知事から古い政治の象徴としてやり玉に挙げられている。2月の千代田区長選では、知事が応援した現職に対し新人を擁立して敗れ、引退に追いやられた。
一敗地にまみれた内田が雪辱を晴らすために後継として託したのが、公募に応じた証券取引所社員の中村彩(27)だ。中村は、知事の主催する政治塾に参加し、都民フから出馬を打診されながら、これを蹴った。内田より51歳も若いが、物おじしない度胸が買われた。
告示日の出陣式には、麻生太郎副総理が来援。「政治家というのは決められないのが一番困る」と、「決められない知事」批判を展開。区長選では黒子に徹した内田も「小池知事は(知事と都議がチェックし合う)二元代表制を一元にしようとしている。知事に意見を言っているのは、自民党都議団だけ」と、支持を訴えた。これを受けて中村は、市場問題で築地と豊洲の共存案を示した知事を「双方にいい顔をした選挙目当ての発言。これが東京の代表なのかと本当に残念に思った」と切り捨て、「4年後になくなるかもしれない党に託していいのか」と、対決姿勢を前面に出した。
内田は、選挙事務所の中央に陣取り、区議24人のうち16人いる自民党議員団を陣頭指揮して、組織戦を展開する。情報漏れを警戒してなのか、記者が何度も足を運び戦況を尋ねても、事務所関係者は「分からない。答えられない」の一点張り。陣営には緊張感が漂う。
これに対する都民ファーストの樋口高顕(34)は、京大生の時に、知事が衆院議員だった当時の地元事務所にインターンで勤務。知事は全幅の信頼を置く。父が元警視総監で駐ミャンマー大使という家柄も話題になっている。樋口は「森友」「加計」などの国政問題には一切触れず、自身の清新なイメージをアピール。「クリーンな政治活動をできるのは都民ファーストの会だ」と訴えながら、自民支持層にも食い込む。
選対組織はなく、推薦団体もわずか。事務所の運営は区長の支持者が中心だがみなボランティアでほとんどが女性だ。公明の支援も受ける。事務所関係者は「優秀で謙虚、ルックスもいいから女性に人気だ。どれだけ多くの有権者と握手できるかが勝負だ」と手応えを口にする。
板橋区は、自民の下村博文都連会長と小池知事の代理戦。現職5人に都民ファーストの新人2人が挑む。自民現職の河野雄紀(47)、松田康将(40)の2人は下村会長の元秘書。この2人に対して、小池知事が差し向けた2人のうち平慶翔(29)も下村会長の元秘書だ。平は女優平愛梨の弟で、同区は仁義なき戦いの様相だ。
河野は告示前日、本紙のインタビューに答え、反旗を翻した平について、「(下村会長は)ずっとかわいがり、育ててきた。腹が煮えくり返る思いだろう」と、下村会長の心境を代弁。これまで口外してこなかったという平の事務所を辞めた経緯について説明しながら、「政治家としての資質はない」と断じ、敵対心を隠さない。その上で、「小池人気の風は感じない。粛々と4年間の実績を訴えていく」と強気に語った。
板橋区では、この自民対都民ファーストの激突の中、公明・橘正剛(64)と共産・徳留道信(65)の現職2人は、組織力を生かしながら議席の確保に躍起だ。
これに対し、影が薄いのが民進現職の宮瀬英治(40)。定員5の大選挙区にもかかわらず、現有議席維持もままならない状況だ。(敬称略)
(都議選取材班)