首相4ヵ国歴訪、米国と地域を結ぶ役割果たせ
安倍晋三首相はベトナムでの日程を最後に、フィリピン、オーストラリア、インドネシアなどアジア太平洋4カ国の歴訪を終えた。
今回の歴訪の最大の意義は、各国首脳との会談で「地域の平和と繁栄のためには、米国の関与が不可欠」という認識を共有したことである。安倍首相はできるだけ早い時期にトランプ次期米大統領との首脳会談を設定し、この「アジア太平洋地域諸国の共通認識」を伝えることが必要である。
「米の関与不可欠」で一致
首相は記者会見で「海洋の安全、航行の自由の原則が極めて重要であり、そのためには法の支配が貫徹されなければならないとの認識で完全に一致した」と歴訪の成果を強調した。その上で、地域の平和と繁栄のために日本が主導的な役割を果たしていく考えを示した。
アジア太平洋地域がわが国の生存と繁栄に欠かせない以上、首相の発言内容は至極当然のものである。重視すべきは、首相が「米国の関与が不可欠だとの考え方の下、引き続き各国と緊密な連携をしていくことで一致した」と述べたことである。
米国の大統領は、父がケニア出身で、国際主義的発想を持つオバマ氏から、排外的言動で世論を煽(あお)ってきた「不動産王」のトランプ氏へと代わる。トランプ氏は「偉大な米国」を目指して「米国第一」の対外政策を推進する方針を明確にしている。われわれが憂慮するのは、それが自由主義国家の先導国としての米国の責任放棄につながるのではないかということだ。
そこで求められるのは、日本が主導してアジアの関係諸国が結束し、トランプ氏に「アジア重視」を促すことである。
首相は近く訪米し、トランプ氏と首脳会談を行う。今回の歴訪の成果を踏まえ、米国の関与継続を期待するアジア太平洋諸国の考えを明確にトランプ氏に伝える必要がある。これら諸国と米国をつなぐ懸け橋として、日本が果たすべき役割は極めて大きい。
4カ国歴訪で次に重要なのは経済問題だった。フィリピンとインドネシア、ベトナムの成長率は5%を上回る。今回は首相に20社程度の企業関係者が同行し、自らもビジネス会合に出席して日本からの投資をアピールした。
特に、オバマ政権との関係が険悪化し、実利重視から親中の姿勢も見えるフィリピンには、官民合わせて1兆円規模の経済協力を約束。中国と南シナ海の領有権をめぐって対立するベトナムには、海上警備能力強化のための巡視船6隻の建造費(385億円)など計1200億円の円借款供与を伝えた。中国の強引な海洋進出を牽制(けんせい)する効果が期待される。
経済関係強化の意義大
貿易に関しては、わが国は域内の最大のライバルである中国に引き続き後れを取っている。2015年までの10年間で、東南アジア諸国連合(ASEAN)主要6カ国と日本との貿易額は27%増加したのに対し、中国は3倍余りに伸びている。今回の歴訪で、投資国としての日本の存在感を現地の人々に示した意義は大きい。