力強い成長どう実現するか
安倍政権 新たな挑戦(下)
「アベノミクスは道半ば。エンジンをもう一度最大限吹かしていく」――こう訴えた参院選での与党大勝は、やはり、勢いが衰えてきたとはいえ、前の旧民主党政権時よりは経済情勢が格段に良くなった、ということへの評価であろう。
好調な企業収益、3年連続の賃上げ、全都道府県での有効求人倍率1以上、国の税収増21兆円など、安倍晋三首相が各地の遊説で訴えた「アベノミクス」3年半の実績は、確かに評価されていい。
首相は11日の自民党本部での会見で、「アベノミクスを一層加速せよと国民から力強い信任をいただいた」と参院選を総括し、12日に総合的な経済対策を月内をめどに策定するよう石原伸晃経済再生担当相に指示した。
問題はなぜ、「エンジンをもう一度吹かさねばならなくなったか」その原因を究明し、正しい処方箋を施すことである。その意味で、首相が遊説中にも、11日にも表明した「包括的で大胆な経済政策」の策定は、間違ってはいない。
首相は表向き認めていないが、過去2回の消費税増税延期という大きな政策決定を官邸主導で進め(財務省はカヤの外に置かれ)たのも、消費低迷の主因が増税にあったことを暗に認めているからであろう。
アベノミクスの失速は、増税で自ら国内需要の減退を招いたところに、運悪く中国経済の減速と原油、資源価格の下落が重なり、企業の設備投資を鈍らせ、輸出も伸び悩むようになり、景気の牽引(けんいん)役を失うようになったからである。
首相が実績として訴えた税収も、増税以降の内需低迷と円高などから、15年度は56兆円台と24年ぶりの高い水準になったものの、法人税収が6年ぶりに前年を割り込み、今後も伸び悩みが予想される。黄色信号が灯(とも)っている状態である。
首相が表明する経済対策は、効果が一時的との批判はあるものの、賃上げ率も下がり、民間需要総崩れの状態にあっては、やはり、欠かせない。英国の欧州連合(EU)離脱決定などで世界経済の不透明感が強まる中で、経済界が「安定した政治の下、アベノミクスをより強力に推進してほしいという期待の表れ」(榊原定征経団連会長)と経済対策の実行を強く求めるのも道理である。
経済対策により需要を創出する中で、企業の成長を促す設備投資をいかに誘発できるか。投資減税や規制改革など「包括的な」対策の中身が重要である。
消費低迷の一因には、年金など将来不安による備えのための買い控え、倹約志向もある。その意味では、持続性ある社会保障制度の構築へ向けた見直しなど「痛みを伴う改革」も進めていく必要があろう。これは財政健全化に資する道でもある。
その際、注意したいのは、増税など短急な財政健全化策を取らないことである。首相は、20年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標は堅持する、と表明しているが、急がば回れ、で経済の成長力強化に努めることである。
(経済部・床井明男)