憲法改正は熟柿作戦、カギは民進
安倍政権 新たな挑戦(上)
「民進党は安倍政権の間は憲法改正をしないと岡田(克也)代表は言っておられるが、それは建設的な対応とはいえない」
参院選のすべての議席が確定した11日、自民党本部での会見で、安倍晋三首相(党総裁)は冒頭発言のすべてを経済と外交問題に費やし、憲法改正については質問に答えるにとどまった。
今回の参院選では自民・公明両党とおおさか維新の会など、いわゆる改憲勢力が憲法改正の発議に必要な3分の2以上の議席を確保。衆院でも既に3分の2以上を保持しているため、改憲勢力が結集さえすれば国会の衆参両院で改憲発議を行える環境が整った。
しかし首相は、選挙結果についても、連立与党が目標とした改選議席の過半数(61)を大きく上回る70議席を得たこと、そして、自民が歴史的勝利となった3年前の参院選よりも比例の得票を150万以上増やして10年ぶりに2千万票を超える得票を得た点を指摘するだけにとどめた。
首相の改憲に対する説明は一貫している。憲法改正は通常の法律と違って国会が決定するのでなく改憲案の発議にとどまり、決定するのは国民だ。首相がリーダーシップを発揮する問題ではなく、国会の憲法審査会が議論を進めて改憲案に収斂(しゅうれん)していくことを期待するのみだというものだ。
憲法改正を党是とする自民党の総裁がかつて上り詰めたことのない衆参両院3分の2以上の高地に達し、2018年9月まで2年以上も総裁任期を残す状況で、首相は国民投票での承認に向かう王道を着実に歩むと腹をくくったようだ。いわゆる熟柿作戦だ。
その道程で最大の壁となるのが野党第1党の民進党だ。民進は党内に少なからぬ改憲派の議員を抱え、綱領にも「未来志向の憲法を国民とともに構想する」と明記している。ただ、岡田代表は今回、「安倍政権での憲法改正に反対する」と表明して、共産との選挙協力に踏み切った。
その結果、1人区での民進候補15人のうち7人が当選したが、自民候補との票差は青森8千、宮城4・1万、福島3万、山梨2・1万、長野7・4万、三重2万、大分1千と、いずれも共産票がなければ当選が危うい差しかない。7議席を得る代わりに共産に大きな借りを作ったわけだ。共産は地方選挙や次の衆院選でも共闘を実現する意欲を示しており、東京都知事選では岡田代表が早々と市民連合プラス野党4党の枠組みを維持する意向を表明したため、民進の候補者選びに大きな混乱が生じた。
連合や民進内の保守派の議員からは民共協力への不満が広がっている。民進が民主党以来の目標である「政権交代可能な政党」を本気で目指すなら、共産ではなく、自民の支持層の方向にウイングを伸ばさなければならない。現在の方向とは正反対であり、9月の党代表選は波乱含みだ。
このどちらに転ぶか分からない民進をどのようにして改憲論議に巻き込むのか。そして衆参両院での論議をどのようにして改憲案に収斂させていくのか。首相は党や国会の「司、司に任せる」と述べているが、本当の政治力が試される新しい課題に直面している。
(政治部・武田滋樹)