名護市長選、普天間移設めぐり保守系分裂

「辺野古」推進訴える島袋前市長

末松県議は知事に追随の姿勢

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設が焦点となる名護市長選(来年1月19日投開票)まで2カ月を切った。辺野古移設反対派の現職、稲嶺進市長(69)に対して、移設推進派の島袋吉和前市長(67)と「県外移設」の自民党所属の末松文信県議(65)が先月末に出馬を表明した。稲嶺市長の再選阻止に向けて、政府や自民党本部が自民党県連に対し、島袋、末松両氏の一本化を探っているが、島袋氏の決意が固く、「県連が移設容認に方針転換、島袋氏で一本化」(議会筋)の動きも出てきた。(那覇支局=竹林春夫、豊田 剛)


自民県連が方針転換し島袋氏に一本化の可能性

名護市長選、普天間移設めぐり保守系分裂

出馬の決意を述べる島袋吉和氏=10月30日、数久田公民館(名護市)

 名護市選出県議の末松氏は10月31日、仲井真弘多(ひろかず)知事や翁長政俊自民党県連会長が同席する中で「企業の倒産や失業者の増加などが市民生活に大きな影響を与え、克服すべき課題は多い」とした上で、「夢と希望の持てる名護市に挑戦したい」と出馬表明した。

 県議1期目を理由に後援会から反対されながら移設容認派市議団や経済界に押されて出馬に踏み切った経緯の末松氏には、何が何でも市長選を勝ち取るといった気迫が見られなかった。

 記者団に配布された出馬表明文には、普天間移設問題が含まれていなかった。表明文を読み上げた後、末松氏は移設問題について「県外が最も望ましいが、基地の固定化はあってはならない」と述べたものの、辺野古移設に対する推進か否かの立場を明確にしなかった。

 記者団の質疑応答では当然、移設問題に質問が集中した。末松氏は、「辺野古の埋立承認申請の可否判断は知事がするもの」と語り、移設先については「言及する立場にない。知事と協力する中で問題解決していきたい」と終始知事に歩調を合わせる姿勢を示し、「辺野古移設」の言葉は出なかった。「辺野古も選択肢と考えているのか」という記者団の執拗(しつよう)な質問に対し、「選択肢の一つ」と答え、記者団の質問を逃れるのが精いっぱいだった。

名護市長選、普天間移設めぐり保守系分裂

出馬表明する末松文信氏=10月31日、名護出雲殿(名護市)

 「選択肢」発言について自民党県連幹部は「少しニュアンスが違う」と驚きを隠せない様子だった。県連の一部には、「辺野古移設」を言うと選挙に負けるとの固定観念がいまだに強いからだ。

 これに対し、島袋氏は10月30日に地元の有権者に囲まれて行われた出馬表明記者会見で「辺野古移設なくして沖縄北部地域の振興発展はない」と辺野古移設推進を前面に打ち出した。「17年間積み上げてきた北部地域振興と普天間移設計画を無にできない」という思いから、「自分が(普天間)移設問題に決着を付ける」と決意表明した。末松氏に対しては「選挙で(稲嶺市長との)対立軸をはっきりすべきだ」と牽制(けんせい)した。

 島袋氏の市長時代に副市長を務めたのが末松氏。それだけに、島袋氏にとって市議団や経済界が相談なしに末松氏を擁立したことに対する不満は隠しきれない。また、4年前の市長選で現職に敗れた後も、政府とのパイプ役となり辺野古移設推進に向けて交渉を続けてきたという自負心がある。

 保守分裂について、島袋陣営は、「4年前の市長選で逆風の中にもかかわらず、1万6000票余りを獲得し、基礎票はある」とし、「現職に失望している市民は多い。市議団や経済界、政党の応援がなくても勝算はある」と強気だ。

 島袋氏は9日に行われた事務所開きで具体的な政策発表を行った。公立名桜大学に県内初となる薬学部の設置、名護市と那覇市を結ぶ鉄軌道の導入などを公約に掲げた。基地政策では、辺野古移設のほか、稲嶺市長になって減額された北部振興予算の増額と軍用地料の恩恵を受けていない区への助成を約束した。

 島袋氏の出馬について、夏から党本部との間で末松氏一本化の話を煮詰めてきた翁長県連会長は「まったく想定外」と焦りと怒りを隠せない。末松氏事務所開きで翁長氏は、「(末松氏で)必ず一本化してみせる」と誓ったが、島袋氏は「末松氏が辺野古移設を明言しない限り応じられない」と突っぱねており、三つ巴(どもえ)で最後まで戦う決意を崩していない。

 自民党本部は、県連に対して辺野古受け入れに政策転換するよう要請したほか、「県外」を主張する県選出国会議員に対しても今月末までに辺野古受け入れの決断を迫っている。中央からの「辺野古移設」の風が強い中で、移設に反対する公明党県本部や地元マスコミに配慮するあまり、一部国会議員や県連には辺野古移設を明確に打ち出せないジレンマがある。

 政策転換を迫られた県連は11月下旬の県議会定例会までに辺野古移設の方針をめぐって再協議する予定だが、「(県連が)辺野古移設容認に方針転換し、末松氏ではなく島袋氏で一本化の可能性もある」(議会筋)。党本部に対して移設に消極的な末松氏を推す理由が弱いからだ。

 夏の参院選では、全国的に自民党に追い風が吹いたにもかかわらず、沖縄では、「県外移設」を掲げた自民党公認候補が敗北した。県連幹部は、「県外移設」が敗北の原因と認めていないが、「沖縄を取り巻く国際情勢を考えると、国防の根幹にかかわる問題で、政策より選挙を優先するのは政治家としておかしい。県としても政府、党本部と一体となって国防政策に当たるのが筋との声が県連内部で強まっている」(県議会筋)との見方を示した。県連は正念場を迎えた。