「いじめ防止基本法」成立を下村博文・文部科学大臣に聞く

 下村博文・文部科学大臣はこのほど本紙のインタビューに応じ、教育改革に取り組む決意を強調した上で、教育委員会制度を抜本的に改める必要性を指摘するとともに、「いじめ防止対策基本法」を通常国会で成立させたいとの意向を表明した。
(聞き手=政治部長・早川一郎)

教育委の抜本改革が不可欠

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しもむら はくぶん 昭和29年生まれ。早稲田大卒。東京都議を経て、平成8年から衆議院議員。内閣官房副長官、文部科学大臣政務官、自民党副幹事長などを歴任。現在、6期目。

 ――「教育再生実行会議」が首相官邸に正式に設置され、近く初会合が開かれる。その会議を設置した目的は何か。

 教育再生は安倍内閣の最重要課題の一つに位置付けられている。直近は経済再生で日本を元気にすることが安倍政権の使命だが、本当の国の再生は人づくりからだ。人づくりが国づくりになる。だから、教育はこの国の根幹にかかわることだということを安倍政権では意識している。それで文部科学省だけでなく政府が一体となって教育改革に取り組んでいこうということで、官邸、総理が先頭になって教育再生実行会議ができた。

 ――その中で議論されていく柱の一つが教育委員会制度の見直しだ。現在の委員会制度の問題点と改革の方向性は。

 大阪市立高校でバスケットボール部の主将が自殺し、体罰の問題が起きている。義家(弘介)政務官に現地の状況を聞いてきてもらったのだが、教育委員会に体罰があるという情報が事前に入っていたにもかかわらず十分な対応ができていなかったため今回、自殺が起きてしまったということだ。滋賀県大津市立中学校でのいじめにより生徒が自殺した問題が起きた時も、教育委員会の対応は遅く、非常に後手後手だった。

 大阪市や大津市だけではない。全国の教育委員会の制度そのものが形骸化しているので対応が遅い。目の前で悩んだり苦しんだり自殺をしようとしているかもしれない子供に対して手を差し伸べるためには、即効性が問われる。したがって、学校現場や教育委員会や文科省関係者が対応できるような機能的な制度設計に変えなければならない。そのためにはまず、教育委員会を抜本的に改めるというのが教育改革の大きな切り口として必要だと思う。6年前の安倍政権でも、教育再生会議で議論をしたが途中で終わってしまった。これをしっかりとやっていきたい。

 ――教育委員会の存続を前提としての改革か。

 そうだ。廃止するということではない。教育委員会の機能を変えていきたいと思っている。

 ――大阪市では市内の他校にも体罰問題がなかったか調査しているようだが、全国的に調査する考えはあるか。

 それはすでに指示した。東京都の教育委員会も独自に調査することを聞いたので文部科学省からすべての都道府県に対して、体罰の実態を調べその結果を早急に報告してもらいたいと事務方に伝達している。教育委員会の対応を把握しながら順次、収集していきたい。教師いじめをするつもりはもちろんない。ただ体罰は犯罪だ。きちっとした処分をすることは、学校だけの問題ではなく司法の場での問題にもなってくると思う。

 ――他方、教員の指導力が問われるような事態が数々指摘されている。教師の不登校まで問題になっている。教師力の強化をどう図るか。

 教育が非常に多様化し、親のニーズも多様化している中で、学校現場で悩んだり苦しんでいる教員がたくさんいる。学校を休んでいる先生は五千数百人いる。誠実な教師であればあるほど子供に対して手を差し伸べたいけれども十分にできないと思うだろう。そのような孤立化した教師に対し、励みになるようなフォローアップもしていかなければならない。

武道必修化で幅広い効果

 ――具体的にはどうしていくか。

 それはケース・バイ・ケースだ。不登校教師には心の病もあるだろうから早めに解消できるような慰労も必要だろうし、学校として結束してカバーしていくことも不可欠だ。

 一方、活躍して努力している先生の教師力をアップするには、教員免許更新制がある。

 ――いじめ防止対策を重視して提言をまとめるようだが。

 できるだけ早く取りまとめて、今国会で「いじめ防止対策基本法」を成立させたい。(時限的には国会会期末の)6月末ぐらいまでということになるので、これからスタートする再生会議の有識者メンバーの方々には法案化へのたたき台となる提言を早めにつくっていただきたいと思っている。

 ――昨年4月から中学校で剣道や柔道といった武道が必修化されたが。

 スタートしたばかりなので成果が数字として上がってくる段階ではないが、今、柔道が65%、剣道が35%ぐらい選択されているようで導入した意義は非常に大きい。どちらも「道」なので、指導者それぞれが精神的な教育も含めて努力していると思う。自分の体を使うことによっての礼儀作法、人としての振る舞い、精神的にも肉体的にも鍛えるという意味で学校の勉強だけでは育成できない幅広い教育的な効果があるだろう。

 ――「ゆとり教育」をどう評価するか。

 私はゆとり教育を全否定するつもりはない。ゆとり教育の本来の趣旨は、それまでの暗記中心ではなく、例えば創造力とか感性を養うというもので、間違ってはいなかった。それを総合的な学習の時間という形で導入したが、担当できる教師力が残念ながら少なく、結果的には「ゆるみ教育」になってしまった。その結果、勉強の基礎力が落ち、学力低下につながっていったので、やはり低学年から理想的なゆとり教育を実施することから、まずは方向転換せざるを得ないということだ。世界の中で競争していくためには、いままで以上に学力や規範意識や子供たちのやる気を高めていくことが必要だ。そういう点から見直しをしていきたい。