孤独担当相 「家族重視」が解決の鍵だ
菅義偉首相は、社会的な孤独・孤立の問題に取り組む担当閣僚に、1億総活躍や少子化対策も所管する坂本哲志地方創生担当相を充てた。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、貧困、引きこもり、自殺などの問題が深刻化している。対症療法的なものにとどまらず、抜本的な対策を講じるよう求めたい。
女性の自殺が増える
新型コロナの感染拡大で、日本では2020年の自殺者数がリーマン・ショック後の09年以来11年ぶりに増加。男性の自殺者数が減る一方、女性や小中高校生が増えるなど、深刻な状況が顕在化している。
孤独担当相は18年1月、世界で初めて英国で任命された。菅義偉首相は坂本氏に、孤独による女性の自殺が増えているとして「問題を洗い出し、総合的に政策を進めてほしい」と指示。坂本氏は内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」を新設し、対策を5月までに取りまとめる方針を示した。
もちろん、自殺対策は喫緊の課題だ。女性は非正規雇用が多く、雇い止めや失業などを理由とする自殺が増えている。外出自粛による介護や育児の孤立化、DV(家庭内暴力)被害の悪化なども原因となっている。政府は相談体制の強化をはじめ、あらゆる政策を動員する必要がある。
ただ、孤独への対処となれば単なる自殺対策にとどまらない広がりを持つ。この問題はコロナ禍の前から大きな課題となっていた。目の前の問題に対する具体策と共に、孤独の減少に向けた抜本策も求められよう。
日本の家族は1980年時点で「夫婦と子」の世帯が4割以上、3世代同居の多い「その他」が約2割を占めていた。ところが、この時点で約2割だった独り暮らし世帯が、2040年には約4割に拡大すると推計されている。一方「夫婦と子」の世帯は全体の4分の1以下となる見通しだ。
背景には、非婚化や晩婚化がある。50歳までに一度も結婚したことのない「生涯未婚率」は、20年で男性が26・7%、女性が17・5%に上っている。こうした現状が孤独問題の深刻化につながっていると言えよう。
生涯未婚率が上昇し始めたのは1990年ごろだ。この時に50歳となった人は、恋愛結婚の数が見合い結婚を上回るようになった60年代に20代となっている。生涯未婚率の減少に向け、政府は自治体や企業などによる結婚支援の取り組みを後押しする必要がある。
東京一極集中を是正し、結婚した夫婦が子供を産み育てやすい地方に移住できるよう、地方創生にも力を入れるべきだ。地方創生や少子化対策を所管する坂本氏の手腕が問われよう。
過剰な個人主義改めよ
結婚は個人の自由だ。しかし「まだ結婚しないのか」という一言がセクハラと受け取られるような風潮が好ましいとは思えない。
世界人権宣言は「家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位」としている。孤独の減少には、社会全体で行き過ぎた個人主義を改め、家族を重視する価値転換が鍵を握ると言えよう。