施政方針演説 迅速な感染対策と成長実現を


 通常国会が開幕し、菅義偉首相が初の施政方針演説を行った。新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が再び発令された中であることから、コロナ対策を目下の重点としながら、脱炭素化社会およびデジタル社会の実現や、科学研究に大きく投資してイノベーションを起こす未来志向の成長戦略を打ち出したことに期待したい。

 支援について細かく説明

 首相は初当選した時に、政治の師匠である梶山静六氏から少子高齢化、人口減少、デフレ経済に向かう資源の乏しい日本で国民に食い扶持(ぶち)をつくっていくのが仕事だと指導され、その薫陶を信条として「国民のために働く内閣」として全力を挙げるとの言葉で締めくくった。

 どの課題も正念場だが、コロナ禍という想定外の難題が加わった状況で、初心に立ち返った決意を示したものだ。困難が大きい時だからこそ世論に敏感でありながらも泰然自若と施政に当たってほしい。

 感染増大で緊急事態宣言の再発令となり、不安を抱く国民や営業に打撃を受ける事業者も多いことを考慮し、対策の理由や支援・助成の金額、内容をきめ細かく説明したことは重要だ。政府、自治体、国民それぞれが一体となって迅速に感染対策を施さなければ「一日も早く収束させる」ことはできない。

 とりわけ、2月下旬からのワクチン接種を順調に進めていくことが喫緊の課題である。昨春のマスク配布や給付金支給の際のような遅れを如何(いか)に回避できるかが、評価の分かれ目ともなるだろう。

 残念ながら首相も指摘した通り、自殺者が5カ月連続で前年を上回るなどコロナ禍は人々を失意のどん底に突き落とす“経済禍”を生み出している。救済策の「Go To トラベル」などが感染拡大を増幅させたとの批判が上がった。

 政府はコロナ対策と経済支援策の両立に苦慮しているところだが、首相が「新型インフルエンザ特別措置法を改正し、罰則や支援に関して規定し、飲食店の時間短縮の実効性を高める」とした法改正では、罰則と支援のバランスが調整され、より国民に無理なく有効な対策に誘導されることを望みたい。

 気候変動によるとみられる台風など自然災害の激甚化から国土を守る「国土強靭(きょうじん)化」への15兆円の対策、温暖化対策に向けた脱炭素化である「グリーン」政策として環境投資に2兆円、デジタル庁発足、科学立国を追求する10兆円規模の大学ファンドによる研究人材育成の基盤整備などは国家の大計だ。

 風力発電、太陽光発電などエネルギー転換のイノベーションに挑戦する事業への支援は先行投資となるが、2050年に年額190兆円の経済効果を見積もっており、グリーン成長戦略は国際的な潮流として軌道に乗せるべきだ。

 日米同盟関係の強化を

 首相は、20日に就任するバイデン次期米大統領との会談を早期に実施し、「自由で開かれたインド太平洋」のための結束を確認することを表明した。政権交代にかかわりなく日米基幹関係は揺るがない国同士の同盟として、強めていくべきだ。