日朝関係 拉致解決なしに改善はない
菅義偉政権発足後、北朝鮮との関係構築に関心が集まっている。拉致・核・ミサイル問題などで周辺国に深刻な脅威を与え続ける北朝鮮には、毅然とした態度で臨む必要がある。特に日朝関係最大の懸案である拉致問題では、「解決済み」と強弁し続ける北朝鮮に惑わされず、金正恩朝鮮労働党委員長の真意を見極めながら被害者全員の帰国につなげなければならない。
「最重要課題」と明言
拉致問題の解決なしに日朝関係の改善はないというのが大前提だ。過去の清算や国交正常化は同時進行ではなく、拉致解決の後で取り組むべき問題だ。
もちろんそのためには対話が不可欠だが、あくまでも拉致解決の糸口を見いだすためのものだという目的がぼかされてはならない。
北朝鮮の出方には要注意だ。米朝交渉では、北朝鮮が最初から完全非核化に応じる考えがなかったことが分かりつつある。拉致問題をめぐる2014年の日朝ストックホルム合意でも、北朝鮮は約束したはずの被害者再調査に最初から本気で取り組むつもりなどなかったのではないかという疑いが深まった。
最小限の譲歩で最大限の見返りを得ようというのが北朝鮮式の交渉術だ。北朝鮮が交渉の場に出てきたこと自体を評価したり、進展と見なしたりするのは禁物だ。
菅首相は就任後初めての所信表明演説で、拉致問題について「引き続き政権の最重要課題」と明言し、正恩氏と直接向き合う決意を示した。安倍晋三前首相と同じ姿勢であることは心強いが、結果が出なければ被害者と家族、国民の落胆はさらに大きなものになる。
今年、被害者家族の有本嘉代子さんと横田滋さんが亡くなった。家族の高齢化が進む中、一刻の猶予もないという事実を改めて重く受け止めなければならない。
米国の新しい大統領が決まれば、北朝鮮は制裁緩和を取り付けるためにまた米国との交渉に乗り出すだろう。米朝関係の行方も見極めながら、北朝鮮にアプローチすることも重要だ。
これまでの日本の働き掛けもあり、すでに拉致問題は米国をはじめ国際社会で広く認知される重大懸案となった。拉致解決を北朝鮮に促す国際社会の包囲網をさらに広げる必要もある。
北朝鮮は今年、国際社会の制裁強化に加え、新型コロナウイルスの感染防止に向けた国境の封鎖、台風などによる水害で国内経済に深刻な打撃を受けたとみられる。体制維持には核・ミサイル開発や経済立て直しが喫緊の課題であり、対日外交は優先順位が低いとの見方もある。
拉致問題をめぐる交渉に北朝鮮を応じさせるには、圧力一辺倒を続けてさえいればいいわけでもない。北朝鮮を前向きにさせられるような手腕が求められよう。
まずはチャンネル作りを
一部では医療支援や食料援助を通じ、解決の糸口をつかむよう促す声もある。まずは水面下の非公式接触を含めあらゆる手段を動員して拉致解決のためのチャンネルをつくり、被害者救出に向けた道筋を付けなければならない。