ナゴルノ停戦 紛争回避に合意継続の外交を


 ロシアの仲介でアゼルバイジャンとアルメニアは、ナゴルノカラバフをめぐる紛争の完全停戦で合意した。

 9月下旬から約1カ月半に及んだ衝突は、アゼルバイジャンの優勢な軍事攻撃を背景にアルメニアの占領地域の返還を認めさせたが、7月の衝突後の停戦が破られた経緯がある。紛争の再発回避に向けた国際社会の取り組みが必要だ。

 繰り返されてきた衝突

 アゼルバイジャンはアルメニア実効支配地域の15~20%を奪還したといい、アリエフ大統領は国民向けに「歴史的勝利だ」と演説した。しかし、報復が報復を生む地域紛争は終息させなくてはいけない。

 アゼルバイジャンとトルコは同じテュルク系民族の国で、オスマン帝国時代にイスラム教の一大勢力圏を築き、キリスト教が布教された最古の国の一つだったアルメニアの人々を弾圧するなど古い対立の歴史がある。第1次世界大戦時にあったとされる同帝国によるアルメニア人虐殺事件を欧米諸国は認定する一方、トルコは強く否定するなど国際社会で歴史認識の対立も問題になってきた。

 旧ソ連末期にアゼルバイジャンとアルメニアの対立は激化し、アルメニア人が多く居住するアゼルバイジャン西部のナゴルノカラバフ自治州の編入をアルメニアは求め、戦争を通じて1991年9月に「ナゴルノカラバフ共和国」樹立を宣言。ソ連崩壊後も実効支配してきた。

 以来、軍事衝突が繰り返されている。今年7月にも紛争が起きてロシア、米国、欧州安保協力機構(OSCE)などの調停で停戦していた。

 もともと旧ソ連だった両国は武器装備もロシア依存が強かったが、同じ東方正教会系のキリスト教圏であるアルメニアとロシアの結び付きを見て、アゼルバイジャンはトルコの支援を受け、武器依存をイスラエルに傾斜させた。

 9月27日に始まった紛争では、アゼルバイジャンがイスラエルから輸入した最新鋭の攻撃型ドローンなど無人兵器によりアルメニア側の施設、軍用車両など多数をピンポントで撃破して主導権を握った。アルメニアはイスラエルにアゼルバイジャンへの武器輸出で抗議したが、軍事的打撃から不利な停戦に応じることになった。

 一方、ロシアとアルメニアなど旧ソ連の親露6カ国で形成される集団安全保障条約機構(CSTO)は合同軍事演習を行ってアゼルバイジャンを牽制(けんせい)したものの、緊急事態展開軍の投入はなかった。

 「戦車不要」論が浮上した無人兵器の実戦投入の事態によって、今後の陸上戦闘で存在感を失いかねない結果になったことは否めない。

 帰属棚上げで課題残す

 また、ナゴルノカラバフの帰属は棚上げされたままで、軍事バランスの偏りから再び停戦が破られかねない課題を残している。

 合意の遂行に向けて平和維持軍を派遣するロシアおよびCSTO加盟国が、アゼルバイジャンに再加盟を促す一方、イスラエルやトルコへの外交的取り組みを行うべきだ。