日本学術会議 任命拒否に問題はない


 菅義偉首相が、日本学術会議が新会員として推薦した105人のうち6人を任命しなかったことへの批判が高まっている。

 だが任命権者は首相であり、批判は当たらない。むしろ、政治問題化することに強い違和感を覚える。

 安保関連法などに反対

 1949年に創設された学術会議は、政府への政策提言や科学者のネットワーク構築を目的とする内閣府の機関で、210人の会員で構成される。任期は6年で、3年ごとに半数が入れ替わる。会員は人文・社会科学、生命科学、理学・工学の分野で優れた業績のある研究者の中から学術会議が候補者を推薦し、首相が任命する。

 6人が任命されなかった理由は明示されていない。ただ6人はいずれも、安倍前政権時に制定された安全保障関連法や、テロ等準備罪を新設した改正組織犯罪処罰法などに反対した。

 中でも6人のうちの一人である松宮孝明立命館大院教授は、改正組織犯罪処罰法について「広く市民の内心が捜査と処罰の対象となり、市民生活の自由と安全が危機にさらされる戦後最悪の治安立法となる」などと強く批判した。

 しかし同法施行後、市民が不当に逮捕されたという話は聞かない。同法はテロの未然防止のために制定され、国際社会でテロが頻発する中、各国と組織犯罪に関する捜査情報の共有も可能となった。批判は極めて無責任であり、良識が疑われる。

 安保関連法の制定も日本を取り巻く厳しい安保環境に対応したものだ。批判する人たちは、中国の海洋進出も北朝鮮の核・ミサイル開発も念頭にないかのようである。日本の安全を守るための法整備に反対する研究者が、年間10億円以上の予算を使う政府機関である学術会議の会員に任命されないのは当然だ。

 首相の任命拒否は「学問の自由を侵すもので看過できない」とする野党は政権批判を強める構えだが、これも言い掛かりに等しい。学術会議の会員でなくても、どれだけでも自由に学問はできる。むしろ、日本学術会議法で定められた首相の任命権を制約しようとすることこそ越権行為ではないか。

 学術会議自体も問題を抱えていると言える。2017年3月には、1950年と67年の声明を踏まえて科学者は軍事的研究を行わないとする声明を公表した。この中で、防衛省の装備品開発に関する「安全保障技術研究推進制度」に対し、政府による研究への介入が著しいとして懸念を示している。

 世界の主要国で、民需と軍需を分けて考え、軍需品の開発を否定するような国家はない。インターネットやカーナビに利用される全地球測位システム(GPS)なども、もともとは軍事目的で開発されたものだ。学術会議の声明は、あまりにも現実離れしていると言えよう。これで政府への政策提言の役割を果たせるのか疑問だ。

 抑止力高める技術研究を

 声明には「科学者コミュニティの戦争協力への反省」という文言がある。75年前の戦争にとらわれるあまり、抑止力向上にもつながる技術の研究に背を向けることがあってはなるまい。