デジタル庁 縦割り打破し利便性向上を


 菅義偉首相は「デジタル庁」創設を看板政策に掲げている。「デジタル改革関係閣僚会議」の初会合では「デジタル化の利便性を実感できる社会をつくっていきたい」と強調した。このためには、行政の縦割り打破が求められる。

コロナ禍で混乱招く

 首相がデジタル庁創設を打ち出したのは、新型コロナウイルスの感染拡大で行政のデジタル化の遅れが顕在化したためだ。1人10万円の特別定額給付金をめぐっては、オンライン申請を行った人への確認作業が情報システム上でできず、紙にプリントアウトして確認する手間が生じて混乱を招いた。

 こうした事態に陥った要因として、情報システムが中央省庁や地方自治体で統一されていないことが挙げられる。各自治体はそれぞれ異なる事業者にシステムを発注し、仕様も違っているのが現状だ。

 デジタル庁の創設によって、システムの共通化を実現する必要がある。武田良太総務相は、このような課題の克服に向けて「自治体デジタルトランスフォーメーション(DX)推進計画」を年内に策定する意向を示している。

 行政のデジタル化を進める上で鍵となるのが、マイナンバーカードの普及だ。現在は普及率が約2割にとどまっている。

 このカードは来年3月には健康保険証としても使えるようになるなど利便性は高まりつつある。銀行口座のひも付けなども検討されている。

 ただ行政サービスに関して、現在は税や社会保障などの一部の手続きしかできない。サービスが充実しない背景には、行政の縦割りの問題がある。

 政府はデジタル庁の創設に向け、年末に基本方針を取りまとめ、来年1月召集の通常国会に関連法案を提出する方針を示している。内閣官房、総務省、経済産業省などに散らばるデジタル政策を集約し、権限を一元化したい考えだ。

 首相は就任の際、行政の縦割り打破を訴えた。デジタル庁創設はその象徴ともなる政策で、デジタル改革担当相のポストも新設した。国民の利便性向上を最優先に改革を推進できるか。首相の指導力が問われる。

 デジタル庁創設の目的は、行政サービスの向上にとどまらない。政府は新たな成長戦略の柱と位置付けている。デジタル技術による既存制度の変革につなげるべきだ。

 デジタル庁のトップには民間人の起用が検討されている。デジタル化による利便性向上や経済活性化を主導できる人物の抜擢(ばってき)を求めたい。

情報漏洩防止の徹底を

 マイナンバーカードをめぐっては、個人情報保護に対する国民の不安が大きいことも普及が進まない要因の一つだ。NTTドコモの電子決済サービス「ドコモ口座」を使った不正な預金の引き出しをはじめ、デジタル化の弱点を突くような犯罪も珍しくない。

 行政のデジタル化が進めば、マイナンバーカードも必要性が増してくるだろう。情報漏洩(ろうえい)防止を徹底して安全性を確保し、国民の信頼を得ていかなければならない。