安倍首相辞任 国政対処怠らず後継を選べ


 安倍晋三首相が辞任を表明した。第1次政権の時と同様、任期途中の病気による志半ばの退陣だ。新型コロナウイルス禍の中での辞任を「心よりお詫びする」と語ったが、健康上の問題で政治判断を誤ることがあってはならないのは当然である。首相は後継の総理・総裁が決まるまで執務に当たり責任を果たす意向であり、国政に空白を生じさせないよう対処すべきだ。

迫力伴った政治姿勢

 2012年12月の第2次内閣発足から約7年半。通算、連続首相在職日数で戦前・戦後を通じ歴代トップの強力な長期政権となった。短命政権続きだった近年の日本政治では異例中の異例だ。衆参国会議員選挙6連勝という実績が求心力を生み「1強」体制を築き上げてきた。

 政治姿勢には迫力も伴った。首相が尊敬する幕末の志士・吉田松陰の「留魂録」に記された「懸命」の気概を持って経済、外交、安全保障などの重要懸案に取り組み政界をリードしてきた。第1次政権時には、自らの信じる政策実現のため衆参で20回以上もの強行採決を行った。

 ところが、今回の辞任会見は悪化している持病の潰瘍性大腸炎の治療中に行われたためか、眼力がなくかつての元気な姿は見られなかった。祖父岸信介の念願であり、自ら政治家を志した原点である憲法改正についても、党の改憲案を後継に託す考えを示し、一議員としてこれから頑張っていきたいと述べた程度だ。衆参両院で3分の2以上の改憲議員を確保した好機を生かせなかったのは残念である。

 トランプ米大統領やプーチン露大統領との良好な関係もあったが、北朝鮮による拉致問題解決や北方領土返還には結び付かなかった。沖縄県・尖閣諸島沖で領海侵犯を繰り返す中国に対する姿勢も「対中包囲網」形成に尽力した初期の外交から大きく後退した。

 ただ、前回の辞任会見が内閣改造、所信表明演説直後に行われたため「政権投げ出し」と批判されたのに対し、今回は、最重要課題の新型コロナへの対策を示し、感染数が拡大傾向から減少傾向に転じたタイミングで表明した点で異なる。この国難には切れ目のない対策が必要であり、後継候補者たちにも緊急テーマとして突き付けられる。

 自民党は来月中にも総裁選を実施し、新政権を発足させる方針だ。二階俊博幹事長が「時間の問題もある」と語るように、早期の選出が望ましい。その際に留意すべきは、加熱するあまり国政に遅滞を生じさせてはならないことだ。派閥力学による総裁決定は避けたい。

明確な指針示す人物を

 候補者には、岸田文雄政調会長や石破茂元幹事長らの名前が挙がっている。次期首相には選挙に勝てる顔は誰かという選択肢はもちろんだが、国内外の課題に明確な指針を示せる能力を併せ持つ人物が望ましい。

 米国の新大統領との信頼関係を構築できるか、軍事大国化し尖閣を狙う一方で経済関係の強い中国にどう対処するか、北朝鮮との拉致問題解決に意欲があるか、憲法改正に信念を持っているかなどを競い合い、国民の理解をより深められるような総裁選にしてもらいたい。