黒川氏訓告処分 社会のモラル崩壊を懸念する


 新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言の発令下に賭けマージャンをして辞職した黒川弘務東京高検検事長を、森雅子法相は懲戒ではなく、制裁的意味合いの薄い訓告処分にした。

 しかし、賭けマージャンは刑法の賭博罪に該当し得る行為だ。違法行為を摘発する検察官を甘い処分で済ませてしまうのであれば、日本社会のモラル崩壊にもつながりかねない。安倍晋三首相は問題の深刻さを認識すべきである。

違法性が問われる行為

 多くの国民が外出を自粛し、休業要請に従い、密閉、密集、密接という「3密」を避け、医療従事者は感染者らへの対応に休みなく追われていた。国民が何とかこの国難を乗り越えようと努力していた最中に、黒川氏は3密無視の賭け事に没頭していた。自身の異例の定年延長に絡んで検察庁法改正案の審議が国会で紛糾している時でもあった。公務員倫理に反する軽率な行為である。

 さらに問題なのは、3年前から月に2、3回、常習賭博に当たる賭けマージャンをしていたことだ。黒川氏の他は、記者2人、元記者1人だが、彼らの行為も「高い倫理意識を備え、あらゆる権力から独立したメディア」を謳(うた)った新聞倫理綱領に抵触している。

 権力から距離を置いて公正中立であるべき新聞記者が権力者と違法性を問われる賭けマージャンをし、緊急事態宣言下にありながら「国民全体の奉仕者」であるはずの検察官が行っても罪に問われない。こうしたことがまかり通れば、社会の規範意識が崩れてしまおう。

 安倍首相は、訓告処分にしたのが法務省であり現政権はそれを追認しただけ、といって官邸の責任を回避する姿勢を貫いている。一方の野党は、首相官邸が主導して処分を軽くしたのではないかと追及している。不透明な決定のプロセスを明らかにすることも大切だが、問題の本質は懲戒処分でなく訓告処分にしたこと自体だろう。

 2017年には、陸上自衛隊の駐屯地内で賭けマージャンをしていた隊員9人が停職の懲戒処分を受けた。野党から、自衛官は厳しい処分を受け、検事長は事実上の無罪放免でいいのかとの批判が出たのは当然だ。

 これに関して森法相は、他省庁の例は把握していなかったと語ったが、どこまで真剣な対応をしたのか疑問である。また、第1次安倍内閣は06年に「賭けマージャンは刑法の賭博罪が成立する」と閣議決定していた。それにもかかわらず、安倍首相は黒川氏の件では、どういう罪に当たるのか法務省に聞いてほしいとかわす。このような誠実さを欠く姿勢では、首相が目指す憲法改正の発議はできず、発議されても国民投票で否決されることは目に見えている。

検察は規範と廉潔性を

 黒川氏は検事総長に次ぐ検察ナンバー2のポストにあった。検察は刑罰権を行使する機関であるだけに、高い規範意識と廉潔性が求められる組織だ。そのことを、身をもって示すべき立場の黒川氏の不適切行為が見逃されていいのか。国民の信頼を回復するためにも、検察の自浄作用が求められる。