原発処理水処分、風評被害抑える情報発信を


  東京電力福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水をどのように処分するかが大きな課題となっている。

 タンクでの保管には限界があり、海洋や大気中に放出するしかないが、地元関係者には風評被害を懸念する声が強い。しかし、処理水を放出しても放射線の影響は極めて小さい。政府は情報発信を強化して地元の理解を得る必要がある。

政府が福島で意見聴取

 政府は今月、処理水の処分方法について福島市内で漁業者や自治体などの地元関係者から意見を聴取した。内堀雅雄知事は、農林水産・観光業で風評を拭い去れていないとした上で「処理水について正確な情報発信に取り組み、慎重に対応を検討してほしい」と要請した。

 福島第1原発で生じる汚染水は浄化装置で濾過(ろか)するが、処理後もトリチウムは残留する。東電の報告では、タンクに保管中の処理水は昨年10月末時点で約117万㌧に上り、約860兆ベクレルのトリチウムが含まれると推測されている。

 東電は137万㌧分のタンクを確保する計画だが、2022年夏には満杯になるとみられている。処理水を処分できなければ、廃炉作業に必要な敷地を確保できなくなる。何らかの方法で放出するしかない。

 経済産業省は昨年11月、処理水を海洋や大気に放出した場合の放射線の影響が、自然界に存在する放射線の影響に比べ「十分に小さい」とする推計結果をまとめた。国連機関が公開した手法を基に推計したもので、これによれば、処理水を1年間で処分した場合、被曝(ひばく)線量は海洋放出では全ての放射性核種合計で最大0・62マイクロシーベルト、大気放出では1・3マイクロシーベルトだ。日本国内では、宇宙線や食物から平均で年間2100マイクロシーベルトの自然放射線を受けている。これを踏まえれば、十分に許容できる範囲だ。

 政府の小委員会は今年2月、海洋放出と水蒸気放出の2案を「現実的な選択肢」と位置付ける報告書を公表した。特に海洋放出については、通常の原子力施設で実施例が多く、必要な設備も水蒸気放出より簡易に済むと指摘している。

 問題は、処理水を放出すれば風評被害が再び広がりかねないことだ。特に、漁業関係者は神経をとがらせている。政府による意見聴取では、県漁業協同組合連合会の野崎哲会長が「生活再建が第一で、海洋放出には反対」と表明した。

 地元に理解を求めるのであれば、政府は情報発信に一層の工夫を凝らして風評被害を抑えなければならない。国民に向け、処理水の放出による放射線の影響がほとんどないことを分かりやすく伝えるべきだ。

真摯で丁寧な対応を

 菅義偉官房長官は、処理水の処分方針を決める時期について「処分開始まで(準備に)2年程度を要することも考えると、意思決定にはそれほど時間をかける余裕はない」としている。今年夏ごろを一つの目安として可能な限り急ぐ意向を示したものだ。

 意見聴取は今後も行われる。政府は地元の不安を除去するため、真摯(しんし)で丁寧な対応を心掛ける必要がある。