習主席来日 秋以降の延期が妥当だ


 新型コロナウイルスの感染拡大で、日中両政府が4月上旬で調整していた中国の習近平国家主席の来日について、延期の方向で検討していることが明らかとなった。もともと習氏来日、とりわけ国賓待遇に対しては反対意見が少なくない。まして新型コロナウイルス感染終息が見えない中、来日など論外だ。東京五輪・パラリンピック後の秋以降に延期すべきである。

 今週にも結論出る見通し

 習氏の来日について、政府は日本側から延期を求めない考えを示してきた。しかし、先月29日の記者会見で安倍晋三首相は「現時点で予定に変更はないが、十分な成果を挙げる必要があり、引き続き日中間で緊密に意思疎通する」と説明し、延期もあり得るとの考えを示唆。今週中にも結論が出る見通しだ。

 中国は今月5日に開幕を予定していた全国人民代表大会(全人代)の延期を決めている。常識的には4月上旬、桜の咲く頃の来日は無理である。

 中国国内の新型コロナウイルスの感染者は8万人を超え、死者は2912人となった。終息への見通しは立たない。日本では、全国の小中高に休校を要請、北海道では緊急事態を宣言した。今月半ばころまでの2週間が正念場だ。両国とも新型コロナ対策に全力を挙げなければならない時である。習氏来日を実のあるものとするには事前の実務者の協議が重要だが、それが十分できない状況にある。

 習氏の国賓来日となれば、天皇陛下との会見や宮中晩餐(ばんさん)会も予定される。中国側の随行員は300人規模とも言われ、それらの人々の感染防止対策をしっかり行うことができるのだろうかという懸念は拭えない。

 4月に来日し天皇陛下との会見が行われれば、それを中国側は一種の禊(みそ)ぎとし、新型肺炎の蔓延(まんえん)で落とした国際的評価の回復に利用する恐れがある。1992年の天皇訪中が、天安門事件で国際的に孤立した中国の国際社会復帰に利用されたのと同じ轍(てつ)を踏むことになる。

 習氏の国賓来日には反対意見が少なくない。中国は昨年、沖縄県・尖閣諸島の接続水域に延べ約1000隻の公船を送り込み、122隻が領海に侵入している。先月13日にも中国海警局の船が4隻相次いで侵入した。侵入は今年に入って4回目だ。

 またチベットや新疆ウイグル自治区での人権弾圧も強め、欧米を中心に国際社会の批判はこれまで以上に高まっている。

 そして今回の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に対しては、中国の共産主義独裁体制による情報隠しと初動の遅れによる人災との指摘がやまない。

 中国のニュースサイト「財新」は、中国の複数の検査機関が昨年末に新型コロナウイルスの存在を確認しながら、中国政府が情報を公開しないよう文書で指示していたと伝えた。

 わが国の国益にならない

 中国国民の命よりも体制維持を優先し、初動が遅れたことへの不満は相当に高まっていると思われる。これに対し、中国政府はインターネット規制の強化で抑えようとしている。感染が終息したとしても、国賓としての習氏来日は、わが国の国益にならないことに変わりはない。