アフガン和平 撤収ありきでは失敗する


 19年に及ぶ戦乱に終止符を打てるのか、危うさの漂う和平合意だ。

 米政府とアフガニスタンの反政府組織タリバンは、カタールで和平合意に調印した。ポンペオ国務長官が駆け付けるなど、米国の意気込みがうかがえる調印式となった。このタイミングでの合意は、11月の大統領選で再選を狙うトランプ米大統領の計算があることは間違いない。

カブール政府は反発

 合意には、14カ月以内の米軍など駐留軍の完全撤収が盛り込まれた。中東などの駐留軍撤収はトランプ氏の公約の一つ。民主党による弾劾騒ぎ後、支持率が上昇し波に乗るトランプ陣営としては、さらに得点を重ねておきたいところだろう。しかし撤収ありきでは、タリバンに足をすくわれることになりかねず、慎重な対応が求められる。

 トランプ政権は一昨年、カタールでタリバンとの直接交渉を開始した。ところが交渉は、アフガンの正統政府抜きで進められた。合意には、タリバンとアフガン政府との和解交渉も盛り込まれているものの、交渉が進むかどうかは政府側の態度次第だ。合意中のタリバン戦闘員の釈放をめぐって早速、擦れ違いが表明化。アフガンのガニ大統領は、米国とタリバンの交渉は「密室で行われた」ものであり、釈放は「約束していない」と反発するなど、すでに交渉を控えさや当てが始まっている。

 1990年代のタリバン政権下では、厳格なイスラム法が取り入れられ、女性の就業、教育の禁止などの人権侵害や、音楽や芸術が否定されるなどの弾圧が行われた。バーミヤンの仏教遺跡群の破壊は国際社会から強い批判を受けた。タリバンへの国際社会の警戒心は強い。

 2001年の米同時多発テロ後、米国は国際テロ組織アルカイダをかくまったとしてアフガンに侵攻、タリバン政権はわずか2カ月ほどで崩壊した。その後は米国の後押しを受けたカブールの正統政府とタリバンが対立する構図が続いていた。

 現在のタリバンの支配地は国内のほぼ半分に及ぶとみられている。タリバンが合意を受け入れたのは、カブール政府との交渉で、武力を背景に優位に立てるとの読みもあったはずだ。

 また、タリバンの発祥の地、隣国パキスタン抜きで、アフガンの平和と安定は望めない。パキスタンのクレシ外相は、合意を「歴史的突破口」とたたえる一方で「合意はパキスタンの取り組みなくしてはあり得なかった」と強調。「和平プロセスの促進へ代表団を組織する。いつ、どのようにして交渉を進めるかも決めなければならない」とタリバン、アフガン政府間の和平交渉への関与に意欲を示した。

 トランプ政権は「テロとの戦い」でのパキスタンへの不満から、軍事支援を停止した。パキスタンとしてはアフガン和平で存在感を示し、米国との関係改善にこぎつけたいところだ。

和平へ真摯な取り組みを

 アフガンでは40年にわたって戦乱が続いてきた。国民の平和への希求は強い。武力では最終的な解決が望めないのは確かだ。恒久的な和平実現へ、当事者らの意見をくみ上げる真摯(しんし)な取り組みが必要だ。