首相中東歴訪、地域安定に大きく貢献を


 安倍晋三首相は、中東のサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、オマーンの3カ国を訪問した。米国がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害し、イランが報復としてイラクの米軍駐留基地をミサイル攻撃するなど中東の緊張は高まっている。日本は地域の安定に大きく貢献すべきだ。

米イラン対立で情勢悪化

 サウジのムハンマド皇太子との会談で、首相は米国とイランの対立を踏まえて「事態のさらなるエスカレーションは何としても避ける必要がある」と述べた。これに対し、皇太子は「当事国間の対話が必要不可欠で、サウジもさらに取り組みを強める」と応じた。

 米国との関係が強いサウジはイスラム教スンニ派の盟主で、シーア派の大国イランとは対立関係にある。首相と皇太子が「中東の安定と緊張緩和に向けて関係国が力を結集すべきだ」との認識で一致したことの意義は大きい。

 首相はUAEでもアブダビ首長国のムハンマド皇太子と会談し、サウジなどと連携して外交努力を尽くすことを確認した。安定化に向けては、イランとの間に領土問題を抱えるUAEの自制と協力も欠かせない。

 今回の訪問はもともと、海上自衛隊の護衛艦と哨戒機の中東派遣をめぐって、関係各国の理解と協力を得るためのものだった。サウジやUAEは米国主導の民間船舶護衛構想「海洋安全保障イニシアチブ」に参加している。

 しかし、情勢緊迫化で訪問の重要性は増したと言えよう。原油輸入の8割以上を中東に依存する日本にとって、この地域の安定は死活問題だ。

 日本は米国と強固な同盟関係を築く一方、イランとも伝統的な友好関係にある。独自の「仲介外交」を展開し、中東の緊張緩和に向けて役割を果たす必要がある。

 トランプ米大統領はイランのミサイル攻撃に対し、軍事力行使には否定的な考えを示し、追加の経済制裁を科した。大規模な紛争は回避されたが、偶発的な衝突が生じる可能性は否定できない。

 米国とイランが対立する中、イランが引き起こしたウクライナ旅客機撃墜をめぐっては、当初事実を隠蔽(いんぺい)した指導部への抗議デモが各地で行われるなど、イラン国内の情勢も不安定化している。

 イランでは昨年11月、ガソリン値上げを発端に反政府デモが拡大。治安部隊の鎮圧で、反政府組織などの推計では約1500人が死亡したとされる。イランが今後、国民の不満をそらすために米国との対決姿勢を強めることも考えられる。

 ソレイマニ司令官殺害後、イランがウラン濃縮について、欧米などとの核合意で決められた制限を順守しないと宣言したことも懸念材料だ。イラクやレバノン、イエメンなどの親イラン派武装組織の動きにも警戒が求められる。

緊張緩和への道筋付けよ

 中東情勢には関係各国の複雑な利害が絡む。首相には、こうした利害を調整し、緊張緩和に向けた道筋を付けることを期待したい。